体の同型写像は、有理数を不変に保ちます。
今回は、そのことを証明していきたいと思います。
体の同型写像の定義と、補題の準備
まずは定義を確認しておきましょう。
(体の同型写像の定義)
$F_1$と$F_2$を体とする。
写像$f: F_1$ $→$ $F_2$
が全単射で、かつ
$a, b \in F_1$に対して
$f(a+b)=f(a)+f(b)$
$f(ab)=f(a)f(b)$
を満たすとき、$f$を体の同型写像という。
$F_1, F_2$に対して体の同型写像が存在するとき、
$F_1$と$F_2$は同型であるといい、
$F_1 \cong F_2$と表す
(体の自己同型写像の定義)
体$F$から体$F$自身への同型写像を、
自己同型写像という
前回は、体の同型写像が四則演算を保存することを示しました。
詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
今回は、もう少し踏み込んでいこうともいます。
四則演算を保存するということは、有理数を不変に保つということです。
(有理数は同型写像で不変)
$\sigma$を体$F_1$から$F_2$への同型写像とする。
$F_1$と$F_2$が有理数$\mathbb{Q}$を含むとき、
$a \in \mathbb{Q}$に対して、
$\sigma (a)=a$が成り立つ
証明では、$\sigma(1)=1$と$\sigma(0)=0$を使います。
まずは補題としてこれらを証明しておきましょう。
($\sigma(1)=1$の証明)
$\sigma$を体$F_1$から$F_2$への同型写像とする。
$F_1$と$F_2$が有理数$\mathbb{Q}$を含むとする。
このとき、$\sigma(1)=1$を示す。
まず、$F_1, F_2$は$\mathbb{Q}$を含むので、
$1 \in F_1$かつ$1 \in F_2$である。
$\sigma$は体の同型写像であるので、
$x, y \in F_1$に対し、
$\sigma(xy)=\sigma(x)\sigma(y)$が成り立つ。
$x=y=1$を代入すると、
$\sigma(1×1)=\sigma(1)\sigma(1)$
よって、
$\sigma(1)\sigma(1)=\sigma(1)$
ここで、$F_2$は体なので、$\sigma(1)$には乗法逆元$\sigma(1)^{-1}$が存在する。
これを$\sigma(1)\sigma(1)=\sigma(1)$の両辺に掛けると、
$\sigma(1)=1$となる。
(証明終了)
($\sigma(0)=0$の証明)
$\sigma$を体$F_1$から$F_2$への同型写像とする。
$F_1$と$F_2$が有理数$\mathbb{Q}$を含むとする。
このとき、$\sigma(0)=0$を示す。
まず、$F_1, F_2$は$\mathbb{Q}$を含むので、
$0 \in F_1$かつ$0 \in F_2$である。
$\sigma$は体の同型写像であるので、
$x, y \in F_1$に対し、
$\sigma(x+y)=\sigma(x)+\sigma(y)$が成り立つ。
$x=y=0$を代入すると、
$\sigma(0+0)=\sigma(0)+\sigma(0)$より、
$\sigma(0)+\sigma(0)=\sigma(0)$
ここで、$F_2$は体なので、$\sigma(0)$には加法逆元$-\sigma(0)$が存在する。
これを$\sigma(0)+\sigma(0)=\sigma(0)$の両辺に掛けると、
$\sigma(0)=0$となる。
(証明終了)
これで準備は整いました。
体の同型写像が有理数を不変に保つことの証明
有理数が同型写像で不変であることの証明の方針を考えていきましょう。
まず、有理数は分数で表されます。
$\dfrac{q}{p}$とでもしましょう。
$\sigma(\dfrac{q}{p})=\dfrac{q}{p}$を示したいわけです。
ここで、$\sigma$は四則演算を保存しますので、
$\sigma(\dfrac{q}{p})=\dfrac{\sigma(q)}{\sigma(q)}$
はすぐ使えます。
ということは、あとは$\sigma(p)=p$さえ示せればよいです。
$p$は整数です。
整数は連続的な概念ではなく、離散的な概念です。
離散的な概念に対する証明において、強力な手札として活躍するものを我々は高校数学で学んでいました。
それは、数学的帰納法!
まず自然数について数学的帰納法で$\sigma(n)=n$
を示し、次にそれをマイナス倍した$\sigma(-n)=-n$
を示せば$\sigma(p)=p$が言えそうです
では証明に進んでいきましょう!
(有理数が体の同型写像で不変であることの証明)
$a=\dfrac{q}{p} \in \mathbb{Q}$について、
$\sigma(\dfrac{q}{p})=\dfrac{q}{p}$
を示す。
まずは、全ての自然数$n$について、
$\sigma(n)=n$であることを数学的帰納法で示す。
$n=1$のとき、
$\sigma(1)=1$は成立←補題
$n=k$のとき、
$\sigma(k)=k$が成立すると仮定する。
このとき、$\sigma(k+1)=k+1$であればよい。
$\sigma(k+1)=\sigma(k)+\sigma(1)$ ←$\sigma$は加法を保存する
ここで、仮定より$\sigma(k)=k$であるので、
$\sigma(k)+\sigma(1)=k+1$
よって、$\sigma(k+1)=k+1$
となり、数学的帰納法から、
すべての自然数$n$について$\sigma(n)=n$は成立。
ここで、
$\sigma(-n)$について考える。
$\sigma(-n)=\sigma(0-n)$
$=\sigma(0)-\sigma(n)$ ←$\sigma$は減法を保存する
$=0-\sigma(n)$ ←$\sigma(0)=0$は補題
$=-\sigma(n)$
よって、
$\sigma(-n)=-\sigma(n)$
ここで、全ての自然数$n$について$sigma(n)=n$
であったので、
$\sigma(-n)=-\sigma(n)=-n$
したがって、全ての整数$p$について、
$\sigma(p)=p$が成立すると分かる。
$\sigma(\dfrac{q}{p})=\dfrac{\sigma(q)}{\sigma(p)}$
$=\dfrac{q}{p}$
よって、$\sigma(\dfrac{q}{p})=\dfrac{q}{p}$
となる。
(証明終了)
まとめ
いかがだったでしょうか?
・体の同型写像で有理数は不変
これを押さえていただければと思います。
5次以上の方程式が代数的に解けないことを証明する際、
係数体は有理数から始める(ことが多い)ので、
今回証明した体の同型写像で有理数が不変であることが重要な役割を演じます。
ではまた次回の記事でお会いしましょう!
参考
画像素材提供(アイキャッチ):OpenClipart-VectorsによるPixabayからの画像
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