ある多項式が与えられたときに、
それが因数分解できるのか(可約)、
それとも因数分解できないのか(既約)は、
ぱっと見た感じでは中々分かりません。
そんな問題を鮮やかに解決してくれるスーパーな道具が、
アイゼンシュタインの既約判定法です。
因数分解のおさらい
アイゼンシュタインの既約判定法は、要するに因数分解に関する定理です。
そこで、肩慣らしに何問か因数分解の問題を観察していきましょう。
ちなみに、問題がいくつか並んでますが、解かなくてOKです
下にスクロールして解説だけ見てください。
その過程でアイゼンシュタインの既約判定法の考え方を拾えるように問題を配置してあります。
(時間に余裕がある方や、興味がある方はぜひ手を動かして解いてみてください)
(問題1)
$x^6+x^3-2$
を有理数係数の範囲で因数分解せよ
(問題2)
$x^3-2x^2+6x-12$
を整数係数の範囲で因数分解せよ
(問題3)
$x^5+2x^4+3x^3+x^2-1$
を整数係数の範囲で因数分解せよ
(問題4)
$x^5+50x^4+40x^3+30x^2+20x+10$
を整数係数の範囲で因数分解せよ
では早速解説を進めていきます。
(問題1の解説)
$x^6+x^3-2$
という多項式を因数分解してみましょう。
これは高次多項式ですが、文字の次数が6と3で、
倍数の関係になっているという特徴があります。
そのため、$A=x^3$という置き換えを行うことによって、
$x^6+x^3-2=A^2+A-2$
というように実質2次の因数分解に落とし込むことができます。
$A^2+A-2=(A-1)(A+2)$と因数分解できるので、
ここで$A=x^3$に戻しましょう。
すると、
$x^6+x^3-2=(x^3-1)(x^3+2)$
と因数分解できます。よし、終わった!次の問題!
なんて思ってませんよね?
まだ今回の因数分解は終わっていません。
$x^3-1$が因数分解できます。
$x^6+x^3-2=(x-1)(x^2+x+1)(x^3+2)$
これで因数分解完了です。
では、次に行ってみましょう。
(問題2の解説)
$x^3-2x^2+6x-12$
を因数分解していきます。
これは先ほどのようにはいきませんね。
次数が倍数になっていません。
そこで、数学Ⅱで習う因数定理を使います。
定数項のー12に着目しましょう。
ー12の約数を$x$に代入していって、0になる値を探します。
ー12の約数は、
1,2,3,4,6,12,-1,-2,-3,-4,-6,-12
です。ちょっと面倒ですが、順番に代入していきます。
$x^3-2x^2+6x-12$
に$x=1$を代入します。
$1-2+6-12=-7\neq 0$
駄目ですね。
次に$x=2$を代入してみます。
$8-8+12-12=0$
0になりました!
よって因数定理より、
この多項式は$(x-2)$で割り切れます
割り算を実行してみましょう
$x^3-2x^2+6x-12=(x-2)(x^2+6)$
これで因数分解完了です
次の問題から難しくなります。
(問題3の解説)
$x^5+2x^4+3x^3+x^2-1$
を因数分解します。
とりあえず、先ほどと同じように因数定理の利用を試みましょう。
定数項ー1に着目します。
約数は1かー1かどちらかです。
まずは$x^5+2x^4+3x^3+x^2-1$
に$x=1$を代入してみましょう
$1+2+3+1-1\neq 0$
駄目ですね。一応$x=-1$もやっておきますか。
$-1+2-3+1-1\neq 0$
はいむりー
今回は因数定理は使えないようです。
これらの事実から分かること。
それは、$x^5+2x^4+3x^3+x^2-1$は
1次式を因数に持たないっぽいということです。
ということは、これが因数分解できるとしたら、
あとは(2次式)×(3次式)です。
これを気合で頑張っていくことになります。
いま、因数分解するときの係数の範囲が整数なので、
$a, b, c, d, e$を整数として、
$x^5+2x^4+3x^3+x^2-1=(x^2+ax+b)(x^3+cx^2+dx+e)$
と因数分解できたとします。
左辺を展開して整理すると、
$x^5+2x^4+3x^3+x^2-1$
$=x^5+(a+c)x^4+(ac+b+d)x^3+(ad+bc+e)x^2+(ae+bd)x+be$
となります。
係数比較すると、
\[ \left\{ \begin{array}{ll} a+c=2 && \cdots ①\\ ac+b+d=3&& \cdots ② \\ e+ad+bc=1 && \cdots ③\\ae+bd=0 && \cdots ④\\ be=-1 &&\cdots ⑤ \end{array} \right. \]
というヤバい連立方程式が立ちます。
一番シンプルな⑤の式を見てみましょう。
$be=-1$
です。いま、$b, e$は整数なので、
$b=1, e=-1$ か $b=-1, e=1$
の2択です。どっちで進めるかは完全に運ゲーですが、
ひとまず$b=1, e=-1$と考えましょう。
すると、先ほどの連立方程式は
\[ \left\{ \begin{array}{ll} a+c=2 && \cdots ①\\ ac+d=2&& \cdots ② \\ ad+c=2 && \cdots ③\\a=d && \cdots ④ \end{array} \right. \]
となります。
④の式$a=d$を使って更に整理しましょう。
\[ \left\{ \begin{array}{ll} a+c=2 && \cdots ①\\ a(c+1)=2&& \cdots ② \\ a^2+c=2 && \cdots ③ \end{array} \right. \]
すると、①の式を変形した$c=2-a$で更に文字消去できます。
\[ \left\{ \begin{array}{ll} a^2+a-2=0&& \cdots ② \\ a^2-a=0 && \cdots ③ \end{array} \right. \]
②より $a^2+a-2=0$ なので、
$(a+2)(a-1)=0$ となり、
$a=-2, 1$
ここで、
③より $a^2-a=0$ なので、
$a(a-1)=0$
となり、
$a=0, 1$
②と③を両方満たすのは$a=1$のみです。
ここで、$c=2-a$なので、$c=1$
以上のことから、
$x^5+2x^4+3x^3+x^2-1=(x^2+x+1)(x^3+x^2+x-1)$
と因数分解されます。
余談ですが、問題3の因数分解は、僕が数検の1級を受験したときに出題されました。
(正確な多項式がどうだったかは最早覚えていませんが、因数定理が使えないタイプの問題でした)
確か1次試験の計算技能検定の方だった気がします。
なんかきっとうまい方法があったに違いないのですが、
限られた時間の中でエレガントな解法を思いつくのは至難の業です。
本番は結局今回のような係数比較の脳筋作戦で解きました。
脳筋作戦もそれなりに大切なのです。
さぁ、ラストの問題に行きましょう!
(問題4の解説)
$x^5+50x^4+40x^3+30x^2+20x+10$
を因数分解していきます。
解き始める前に、
なんかこの式結構特徴的な式だな、
というセンサーが起動した方がいたとしたら、天才です。
気づいてほしい特徴は、
なんか係数5の倍数ばっかじゃね?
という点です。
留意しておいてください。
では先に進んでいきましょう。
まずは因数定理を試してみましょう。
10の約数は、
1,2,5,10,-1,-2,-5,-10
です。試してみると分かりますが、
$x$にどの約数を代入しても
$x^5+50x^4+40x^3+30x^2+20x+10$
が0になることはありません。
ということで、先ほどの問題3のように脳筋係数比較作戦を余儀なくされます。
$a, b, c, d, e$を整数として
$x^5+50x^4+40x^3+30x^2+20x+10$
$=(x^2+ax+b)(x^3+cx^2+dx+e)$
と因数分解できたとします。
左辺を展開して整理して係数比較すると、
\[ \left\{ \begin{array}{ll} a+c=50 && \cdots ①\\ ac+b+d=40&& \cdots ② \\ e+ad+bc=30 && \cdots ③\\ae+bd=20 && \cdots ④\\ be=10&&\cdots ⑤ \end{array} \right. \]
というヤバい連立方程式が立式されます。
ここで、問題3と同じように文字消去を進めていこうと思うのですが、
全然うまくいきません。
なぜか?
一体いつから、、、
この多項式が因数分解できると錯覚していた?
(今回の記事はこのセリフを言うためだけに書いたといっても過言ではありません笑。だって「アイゼン」シュタインですよ!? もし同じ世代の読者の方がいたなら…伝われ!!!)
実は$x^5+50x^4+40x^3+30x^2+20x+10$
は因数分解できないのです。
その理由を今から解説します。
\[ \left\{ \begin{array}{ll} a+c=50 && \cdots ①\\ ac+b+d=40&& \cdots ② \\ d+e+ad+bc=30 && \cdots ③\\ae+bd=20 && \cdots ④\\ be=10&&\cdots ⑤ \end{array} \right. \
の⑤の式に着目してください。
$be=10$です。
いま、$b, e$は整数なので、
$b$か$e$のどちらかは$5$の倍数でなければなりません。
また、10を素因数分解すると
$10=2×5$
なので、10は5を一つしかもってません。←これ結構重要です。
したがって、$b$と$e$のうち、どちらかが5の倍数なら、
他の一方は5の倍数であってはならないことになります。
例えば$b$が5の倍数だったとしましょう。
すると、$e$は5の倍数ではないことになります。
ここで、④の式に着目しましょう。
$ae+bd=20$
です。いま、$b$が5の倍数です。
左辺の20も5の倍数なので、
$ae$+(5の倍数)=(5の倍数)
という状況になっています。
ゆえに$ae$は5の倍数でなければなりません。
$e$は5の倍数ではないので、$a$が5の倍数ということになります。
続いて③の式を見ていきましょう。
$e+ad+bc=30$
です。$b$と$a$と30が5の倍数なので、
$e$+(5の倍数)+(5の倍数)=(5の倍数)
という状況が出来上がっています。
したがって、$e$が5の倍数にならなくてはなりません。
しかし、これは$be=10$
に矛盾します。
なぜなら、10は素因数として5を一つしかもたないのに、
$b$も$e$も5の倍数では5を2つもたないといけなくなるからです。
ゆえに、背理法の考え方から、
$x^5+50x^4+40x^3+30x^2+20x+10$
は整数係数で因数分解できないのです。
実は問題4こそがアイゼンシュタインの既約判定法です。
今回、$x^5+50x^4+40x^3+30x^2+20x+10$
が因数分解できないことを示すにあたって、重要だったポイントは以下です
・最高次の係数は5の倍数でなかったこと
・最高次以外の係数が全て5の倍数であったこと
・定数項10は、5の倍数であるものの、素因数に5を一つしかもたなかったこと
これを文字を使って定式化したものこそがアイゼンシュタインの既約判定法です。
アイゼンシュタインの既約判定法
では、アイゼンシュタインの既約判定法を紹介していきます。
(定理:アイゼンシュタインの既約判定法)
整数係数の多項式
$f(x)=a_nx^{n}+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots +a_1x+a_0$
に対して、以下の3つの条件を満たす素数$p$が存在するとき、
$f(x)$は有理数係数の範囲で既約な多項式となる。
① $a_n$は$p$で割り切れない
② $a_i$ $(i=0, 1, 2, \cdots, n-1)$ は$p$で割り切れる
③ $a_0$は$p$で割り切れるが、$p^2$では割り切れない
証明の手順は先ほどの問題4と全く同じです。
一つ注意事項があるとすれば、
素数の扱いについてです。
$10=2×5$
を素数5に着目して考えます。
10は素因数分解したときに5が1回だけ現れます。
ゆえに、$10=ab$
のように2つの積に分解したときは、
$a$か$b$のどちらか一方のみが5で割り切れて、もう一方は5で割り切れません。
これは問題4でも活躍した性質ですね。
すなわち、
「整数の積$ab$を素因数分解したときに素数$p$が1回だけ現れるならば、
$a,b$どちらか一方のみが$p$の倍数で、もう一方は$p$の倍数になりえない」
ということが成り立ちます。
証明ではこの事実を使いますので、留意してください。
ではいってみましょう!
(証明)
整数係数の多項式
$f(x)=a_nx^{n}+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots +a_1x+a_0$
に対して、以下の3つの条件を満たす$p$が存在するとする。
① $a_n$は$p$で割り切れない
② $a_i$ $(i=0, 1, 2, \cdots, n-1)$ は$p$で割り切れる
③ $a_0$は$p$で割り切れるが、$p^2$では割り切れない
このとき、$f(x)$が整数係数の範囲で既約であることを背理法で示す。
いま、$f(x)$が整数係数の範囲で可約であると仮定する。
すると、整数係数の多項式
$g(x)=b_sx^s+b_{s-1}x^{s-1}+\cdots +b_1x+b_0$
$h(x)=c_tx^t+c_{t-1}x^{t-1}+\cdots +c_1x+c_0$
によって、
$f(x)=g(x)h(x) \cdots ㋐$
と因数分解できる。
㋐において、両辺の次数は等しいので、
$n=s+t$
である。
ここで、㋐の最高次の係数を比較すると、
$a_n=b_sc_t$
となる。
条件①より、$a_n$は$p$で割り切れないので、
$b_s, c_t$のいずれも$p$で割り切れない。
ここからは場合分けをして考える。
$i)$
「$g(x)$の最高次の係数以外の任意の係数が全て$p$の倍数で、
かつ$h(x)$の最高次以外の係数以外の任意の係数も全て$p$の倍数である」場合を考える。
この場合、㋐の定数項を比較した際に
$a_0=b_0c_0$
となり、$b_0$が$p$の倍数で、かつ$c_0$も$p$の倍数であるので、
$a_0$を素因数分解したときに$p$が2回現れることになり、条件③に矛盾。
ゆえに背理法より、この場合は$f(x)$は整数係数の範囲で既約である。$\cdots ㋑$
$ii)$
「$g(x)$の最高次の係数以外のある係数が$p$の倍数にならないか、
または$h(x)$の最高次以外の係数のある係数が$p$の倍数にならない」場合を考える。
$g(x)$の最高次の係数以外のある係数のうち、$p$の倍数とならない最小のものが$j$次の係数$b_j$ $(0≦j<s)$だったとする。
㋐について、$j+t$次の係数を比較する。
$a_{j+t}=b_{j+t}c_0+\cdots b_{j+1}c_{t-1} +b_jc_t \cdots ㋒$
(計算してみると分かりますが、添え字の和が$j+t$になるやつらを足すことになります)
㋒の左辺について、
$b_j$の定義より、$b_{j+1}, b_{j+2}, \cdots, b_{j+t}$
は全て$p$の倍数でなければならない。
したがって、左辺の
$b_{j+t}c_0+\cdots b_{j+1}c_{t-1} $
は$p$の倍数である。
簡略のため、これを$pM$とおく $(Mは整数)$
すると、㋒の式は
$a_{j+t}=pM+b_jc_t\cdots ㋓$
となる。
条件②より、$a_{j+t}$は$p$の倍数である。
㋓について、$a_{j+t}$が$p$の倍数で、$pM$も$p$の倍数であるので、
$b_{j}c_t$も$p$の倍数でなければならない。
ここで、$b_j$の定義より、これは$p$の倍数ではない。
また、$c_t$は$h(x)$の最高次の係数のため、これも$p$の倍数ではない。
ゆえに、$b_jc_t$は$p$の倍数になりえないが、これは矛盾。
よって、この場合も背理法により$f(x)$は整数係数の範囲で既約である$\cdots ㋔$
㋑と㋔より、いずれの場合も$f(x)$は整数係数の範囲で既約である
(証明終了)
アイゼンシュタインの既約判定法を正しく使うためには、重大な注意ポイントがあるので、
そこを補足説明しておこうと思います。
(要注意ポイント)
アイゼンシュタインの既約判定法は、逆は成り立たない
ここを勘違いしやすいので注意してください。
例えば、$x^3-3x+1$は整数係数の範囲で既約ですが、
アイゼンシュタインの既約判定法の条件①②③を満たす素数$p$は存在しません。
要するに、
アイゼンシュタインの既約判定法の条件を満たす⇒整数係数で既約
は成り立ちますが、
整数係数の範囲で既約な多項式がすべてアイゼンシュタインの既約判定法の条件を満たすわけではないのです。
この注意事項さえ押さえておけば、アイゼンシュタインの既約判定法は超スーパー便利な武器になります。
まとめ
いかがでしたか?
・多項式が既約かどうかを判定するのは脳筋係数比較作戦になりがちで、結構大変
・アイゼンシュタインの既約判定法マジ便利
・アイゼンシュタインの既約判定法は、逆は成り立たない
以上を押さえていただければと思います
ではまた次回の記事でお会いしましょう!
コメント
コメント一覧 (2件)
問題3は
=x^5+x^4+x^3+x^4+x^3+x^2+x^3-1
=x^3(x^2+x+1)+x^2(x^2+x+1)+(x-1)(x^2+x+1)
=(x^2+x+1)(x^3+x^2+x-1)
で、いかかでしょ?
ドラポンさん
エレガントな解答ありがとうございます!
かっこいいですね!!