ガロア理論を学び始めよう!
前回、5次以上の方程式には解の公式が存在しないということを紹介しました。
方程式が解けるための必要十分条件を与えるための理論がガロア理論です。
それは、端的に言えば、「体」と「群」が織りなす美しい協奏曲です。
「体」という概念と「群」という概念は定義を与えていないので、今はとりあえずガロア理論には2つの数学的な道具があるのだな、くらいに思っておいてください。
この長大なストーリーを、なるべく平易な表現で理解していこうというのが今回のシリーズです。
全何回のシリーズになるか今はまだわかりませんが、最後まで突き進んでいこうと思います。
基礎知識としては、高校数学程度(主に数学Ⅱ)を想定します。
基礎知識はあくまで目安なので、気楽に楽しんでください。
まずは因数分解について考えていきましょう!
因数分解~既約なの?可約なの?~
中学校以来、何気なくやっている因数分解。
実は、どの範囲で因数分解しているか意識することが大切です。
例えば、$x^2-2$と$x^2+1$を考えてみましょう。
整数係数の範囲では?
$$x^2-2とx^2+1のまま$$
実数係数の範囲では?
$$(x+\sqrt{2})(x-\sqrt{2})とx^2+1$$
複素数係数の範囲では?
$$(x+\sqrt{2})(x-\sqrt{2})と(x+i)(x-i)$$
このように、係数の範囲によって、因数分解の様子は変わってきます。
係数の範囲を決めたとき、
もう因数分解できなかったら既約といい、
まだ因数分解できたら可約といいます。
例えば、$x^2-2$は有理数係数の範囲では既約ですが、実数係数では可約で、$(x+\sqrt{2})(x-\sqrt{2})と因数分解できます$
ガロア理論では、ある多項式が与えられたときに、それが既約なのかどうなのかということがすごく重要です。
有理数係数の範囲では既約でも、係数の世界を広げていくといずれ可約になります。
ちなみに、係数を複素数の範囲まで広げれば、どんな多項式も必ず可約になります。
$x^2+x+1$も、$x^9+x^2+3x+1$も、$x^{17}+x^{12}+2x^3+x+8$も、
複素数係数の範囲では絶対に可約です。
一般に、$n$次方程式$a_nx^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots +a_2x^2+a_1x+a_0=0$
は、複素数係数の範囲では必ず1次式に因数分解できて、重解を含めて$n$個の解を持つことが知られています。
これを、代数学の基本定理と言います。ガウスさんが証明しました。
これを聞くと、え?と思う人が多いと思います。
5次以上の方程式って解の公式ないんじゃなかったの?
$n$次方程式が$n$個の解をもつなんて、5次以上の方程式が解の公式を持たないことと矛盾しない?
その疑問、ごもっともです。
ですが、結論から言って、$n$次方程式が$n$個の解をもつことと、5次以上の方程式が解の公式を持たないことは矛盾しません。
どういうことかというと、「解が存在する」ということと「解の公式で解を求めることができる」ということは全く別の話なのです。
つまり、5次以上の方程式にも、複素数の範囲で解は必ず存在するが、その解を「解の公式」という道具で表現することは一般にはできない、ということです。
この事実の理解のために、ちょっと例え話をしようと思います。
たとえば、紙はハサミという道具で切ることができますよね。
爪楊枝もハサミで切ることができます。
でも木をハサミで切ろうと思ったら、ちょっと無理ですよね。
木を切るにはチェンソーが必要です。
ハサミでは木を切ることはできませんが、チェンソーなら木を切ることができます。
これと似たような話で、5次以上の方程式の解は、解の公式では求めることができませんが、他のもっと高度な数学的な道具を使うと求めることができます。
5次以上の方程式にも解は存在するが、それを解の公式で記述することはできない、ということです。
話を戻すと、どんな多項式であっても、係数を複素数まで広げると、必ず因数分解できます。
でもいきなり最大限まで世界を広げてもあんまり面白くありません。道中を楽しみたいわけです。
そこで、どの程度世界を広げれば可約になるのか、というギリギリラインを追っていくことになります。
ガロア理論では、ギリギリラインを追って行っているというイメージが地味に大切になります。
ここの意識が抜けていると、途中で出てくる公式の条件の必要性や、式変形の意図がつかみにくくなるので、頭の片隅に置いておいてください。
そして、「数の世界を広げていく」というイメージを表現するのに「体」という概念を使います。
次回は「体」について掘り下げていきましょう!
まとめ
・多項式が因数分解できない→既約
・多項式が因数分解できる→可約
・既約か可約かは、係数の範囲によって変わる。範囲を広げていくと、いずれ可約になる。
・$n$次方程式は複素数の範囲に$n$個の解を持つ
・5次以上の方程式にも解は存在するが、それを解の公式で記述することはできない
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