今回の記事では、1のn乗根がべき根で解けることを証明します。
代数的に解けると言い換えてもよいです。
その際、またも対称性を高めていくことが重要で、ラグランジュ・リゾルベントが活躍します。
証明はかなりの長さになってしまいましたが、代わりに分かりやすさと丁寧さを大切にし、
どのような発想で証明を進めるか、その式変形はなぜ思いつくのかといった
思考プロセスの部分まで解説しました。
ラグランジュ・リゾルベントの仕事ぶりに注目です!
1のn乗根についてのおさらい
そもそも1のn乗根とは何だったでしょうか?
空の青さや木々の美しさと同じように、あまりに当たり前すぎていつの間にか忘れ去っている身近な存在。
それが代数における1のn乗根です。
1のn乗根とは、簡単に言えば、n回かけて1になる数のことです。
$n=2$の場合が最も分かりやすいと思います。
2回かけて1になる数は、1とー1です。
要するに、$x^2-1=0$の解のことです。
$2$を$n$に置き換えれば1のn乗根の完成!
要するに、$x^n-1=0$の$n$個の解が1のn乗根です。
ここまで読んで、記事のタイトルに違和感を持った方は鋭いです。
え?
$x^n-1=0$の解って、ド・モアブルの定理ですぐ求めれたじゃん!
$\zeta_n=\cos \dfrac{2\pi}{n}+i\sin \dfrac{2\pi}{n}$と置くと、
$x^n-1=0$の解は
$x=\zeta_n, \zeta_n^2, \cdots, \zeta_n^n(=1)$
じゃないの??
その通りです。
これで$x^n-1=0$の解を求めることはできています。
が、「べき根で」解けているかどうかは分かりません。
どういうことかというと、「べき根で解ける」あるいは「代数的に解ける」というのは、
根号しか使ってはいけないという感じの意味合いなのです。
つまり、解を表すにあたってサインやコサインを使ってはいけないのです。
$n=3$の場合が分かりやすいので、具体例を見ていきましょう。
ド・モアブルの定理を使うと、
$x^3-1=0$の解は、
$x=\cos \dfrac{2\pi}{3}+i\sin \dfrac{2\pi}{3}, \cos \dfrac{4\pi}{3}+i\sin \dfrac{4\pi}{3}, \cos \dfrac{6\pi}{3}+i\sin \dfrac{6\pi}{3}$
です。一方で、
$x^3-1=(x-1)(x^2+x+1)$
なので、$x^2+x+1=0$に
解の公式を使うと、$x^3-1=0$の解は
$x=1, \dfrac{-1\pm \sqrt{3}i}{2}$
となります。これがべき根で解けた状態です。
$x^4-1=0$は楽勝でべき根で解けていることが分かります。
$x=\pm 1, \pm i$
です。$i=\sqrt{-1}$なので、$i$はべき根とみなせます。
しかし、$n=5$の場合、解をべき根で表すのは、まぁまぁ難しいです。
腕に自信のある方はぜひチャレンジしてみてください。
$x^5-1=0$を解きます。
$x^5-1=(x-1)(x^4+x^3+x^2+x+1)$
より、$x=1$が解であることは直ちに分かります。
問題は、
$x^4+x^3+x^2+x+1=0$
をどうやって解くか。
すでに素数次の円分多項式の記事で見た通り、
$x^4+x^3+x^2+x+1$
は整数係数の範囲で既約で、したがって有理数係数で既約です。
(アイゼンシュタインの既約判定法が大活躍しました)
これ以上因数分解はできないので、因数定理に頼ることができません。
4次方程式の解の公式が使えないわけではありませんが、大変すぎます。
そこで、この式の特徴を上手く使います。
$x^4+x^3+x^2+x+1$
は、係数が左右対称です。
真ん中の項は$x^2$なので、
$x^4+x^3+x^2+x+1=0$の両辺を$x^2$で割ります。
$x^2+x+1+\dfrac{1}{x}+\dfrac{1}{x^2}=0$
$(x^2+\dfrac{1}{x^2})+(x+\dfrac{1}{x})+1=0$
どうです?
左辺は$x$ と $\dfrac{1}{x}$の対称式です。
よって、対称式の基本定理より、$x$ と $\dfrac{1}{x}$の基本対称式で表されます。
実際に計算してみましょう。
$(x^2+\dfrac{1}{x^2})+(x+\dfrac{1}{x})+1=0$
$(x+\dfrac{1}{x})^2-2x\dfrac{1}{x}+(x+\dfrac{1}{x})+1=0$
$(x+\dfrac{1}{x})^2+(x+\dfrac{1}{x})-1=0$
ここで、$A=x+\dfrac{1}{x}$とでも置けば、
$x^4+x^3+x^2+x+1=0$は
$A^2+A-1=0$
に帰着させることができ、これは普通に解の公式で解けます。
$A=\dfrac{-1\pm \sqrt{5}}{2}$
$A=x+\dfrac{1}{x}$だったので、
$x+\dfrac{1}{x}=\dfrac{-1\pm \sqrt{5}}{2}$
となります。
$x+\dfrac{1}{x}=\dfrac{-1+ \sqrt{5}}{2}$のとき、
両辺に$x$をかけて整理すると、
$x^2-\dfrac{-1+\sqrt{5}}{2}x+1=0$
です。これを平方完成しましょう。
$(x-\dfrac{-1+\sqrt{5}}{4})^2-(\dfrac{-1+\sqrt{5}}{4})^2+1=0$
$(x-\dfrac{-1+\sqrt{5}}{4})^2=\dfrac{(-1+\sqrt{5})^2-16}{16}$
$(x-\dfrac{-1+\sqrt{5}}{4})^2=\dfrac{-10-2\sqrt{5}}{16}$
よって、
$x-\dfrac{-1+\sqrt{5}}{4}=\pm \dfrac{i\sqrt{10+2\sqrt{5}}}{4}$
したがって、
$x=\dfrac{(-1+\sqrt{5})\pm i\sqrt{10+2\sqrt{5}}}{4}$
となります。
$x+\dfrac{1}{x}=\dfrac{-1- \sqrt{5}}{2}$のときもほぼ同様で、
計算すると
$x=\dfrac{(-1-\sqrt{5})\pm i\sqrt{10-2\sqrt{5}}}{4}$
となります。
まとめると、
$x^5-1=0$の解が
$x=1, \dfrac{(-1+\sqrt{5})\pm i\sqrt{10+2\sqrt{5}}}{4}, \dfrac{(-1-\sqrt{5})\pm i\sqrt{10-2\sqrt{5}}}{4}$
となることが分かり、べき根で解けると分かります。
次は$x^7-1=0$をやってみましょう!
$x^7-1=(x-1)(x^6+x^5+x^4+x^3+x^2+x+1)$
です。
$x^6+x^5+x^4+x^3+x^2+x+1$
も係数が左右対称なので、
$x^6+x^5+x^4+x^3+x^2+x+1=0$
の両辺を$x^3$で割ります。
$x^3+x^2+x+1+\dfrac{1}{x}+\dfrac{1}{x^2}+\dfrac{1}{x^3}=0$
先ほどと同じようにこれを$x+\dfrac{1}{x}$対称式で表すと、
$(x+\dfrac{1}{x})^3+(x+\dfrac{1}{x})^2-2(x+\dfrac{1}{x})-1=0$
となります。
これは有理数係数で既約なんです泣
なのでこの3次方程式を頑張って解くしかないのですが、
3次方程式には解の公式が存在し、それを導く方法も既知なので(カルダノの方法)
$x^7-1=0$の解がべき根で解けることは一応確認できました。
問題はここからです。
$x^{11}-1=0$を考えてみましょう。
同様の議論を踏むと、
$x^{10}+x^9+x^8+x^7+x^6+x^5+x^4+x^3+x^2+x+1=0$
を解くことになります。
係数が左右対称なので、$x^5$で両辺を割りましょう。
$x^5+x^4+x^3+x^2+x+1+\dfrac{1}{x}+\dfrac{1}{x^2}+\dfrac{1}{x^3}+\dfrac{1}{x^4}+\dfrac{1}{x^5}=0$
これまでと同じように、これを$x+\dfrac{1}{x}$で表します。
この作業にはかなりの気合が必要ですが、頑張って計算すると、
$(x+\dfrac{1}{x})^5+(x+\dfrac{1}{x})^4-4(x+\dfrac{1}{x})^3-3(x+\dfrac{1}{x})^2+3(x+\dfrac{1}{x})+1=0$
となり、なんと5次方程式が出現してしまいました。
3次方程式に解の公式があることは分かっていますが、
5次方程式には実は解の公式がありません※
なので、この5次方程式を解く方法が分かりません(実際は解けますけど)
したがって、$x^n-1=0$がべき根で解けることを示すやり方は、
個別アプローチでは限界を迎えることになります。
そこで、計算を飛び越えてくれる魔法の道具
ラグランジュ・リゾルベントを使って考察を深めていきましょう。
次の見出しからは、$x^n-1=0$をラグランジュ・リゾルベントを用いて対称性という視点で分析していきます。
※5次以上の方程式は解の公式が存在しませんが、例えば
$x^6-8x^3+7=0$のように、特殊な方程式なら解くことができます。
要するに、「5次以上の方程式には解の公式がない」という事実は
「5次以上の方程式は解ける場合もあるし、解けない場合もある」という意味で
「すべての5次以上の方程式は解くことができない」ということを主張しているわけではない
ということを再確認しておきましょう。
$(x+\dfrac{1}{x})^5+(x+\dfrac{1}{x})^4-4(x+\dfrac{1}{x})^3-3(x+\dfrac{1}{x})^2+3(x+\dfrac{1}{x})+1=0$
は実は解けるタイプの5次方程式なのです。
では、次の見出しにGO!
ド・モアブルの定理に馴染みのない方は、ぜひ以下の記事をご覧ください
あと、1のn乗根がべき根で解ける証明では、
「対称式の基本定理」と「解と係数の関係」のコンボが活躍するので、
この2つに馴染みのない方は以下の記事をご覧ください。
1のn乗根とラグランジュ・リゾルベント
さぁ、ここでは$x^n-1=0$がべき根で解けることを
ラグランジュ・リゾルベントを使って(ちょっと改造して)証明するための
アイデアを観察していきます。
(定理)
$n$を自然数とする。このとき、
$x^n-1=0$
はべき根で解くことができる
なんともシンプルな定理です。初めて証明したのは、かの有名なガウス。
さて、証明の基本方針ですが、大前提として、
この定理は$n$についての定理である
という点を強く意識しておかなければなりません。
この時点で、ある程度選択肢は限られます。
① $n$についての数学的帰納法
② 剰余類(数を割った余り)に着目
③ $n=p_1^{e_1}\cdots p_k^{e_k}$と素因数分解されたものと捉えて、
まず素数の場合を示し、順次その積の場合を示していく
①、②、③以外だと、あとは背理法が有力候補。
ちなみに、③のやり方は一般の円分多項式が整数係数で既約であることを証明した際にも活躍した方針です。
結論から言うと、今回は①と③の合わせ技でいきます。
それにあたって、まずは素数の場合の例を観察していきましょう。
$n=5$くらいが扱いやすいので、
まずは$x^5-1=0$がべき根で解けることを、ラグランジュ・リゾルベントを使って示していきます。
$x^5-1=(x-1)(x^4+x^3+x^2+x+1)$
なので、実質的には
$x^4+x^3+x^2+x+1=0$
がべき根で解けることを示していきます。
これは4次方程式なので、$\zeta_4$を使ったラグランジュ・リゾルベントを考えます。
$\zeta_4=i$ですが、$\zeta_4$と表記した方が一般の場合の証明に応用しやすいので、あえて$\zeta_4$と表します。
$x^4+x^3+x^2+x+1=0$
の4つの解を$x_1, x_2, x_3, x_4$とし、
$\zeta_4=\cos \dfrac{2\pi}{4}+i\sin \dfrac{2\pi}{4}$とします。
↑ここ突っ込みどころなので、覚えておいてください。
すると、ラグランジュ・リゾルベントは
$x_1+\zeta_4x_2+\zeta_4^2x_3+\zeta_4^3x_4$
となります。
このままでは、4次方程式を解いた時と全く同じです。
しかし、
$ax^4+bx^3+cx^2+dx+e=0$
と
$x^4+x^3+x^2+x+1=0$
では、決定的に違う点があります。
この条件の差をいかに活用していくかが、今回の証明の肝です。
2つほど見落としてはいけない条件がありますので、確認します。
条件1:$x_1, x_2, x_3, x_4$は$x^5-1=0$の解である
条件2:$x^5-1=0$の$5$は素数である
まずは条件1の意義を考えましょう。
$x^5-1=0$の解であるとはつまり、
ド・モアブルの定理が使える
ということです。
ゆえに
$x_1=x_1^1, x_2=x_1^2, x_3=x_1^3, x_4=x_1^4$
です!!なので、
$x_1+\zeta_4x_2+\zeta_4^2x_3+\zeta_4^3x_4$
は
$x_1+\zeta_4x_1^2+\zeta_4^2x_1^3+\zeta_4^3x_1^4$
と言い換えることができます。
つぎに条件2に着目しましょう。
これを見てください。
$2^1 \equiv 2,$ $2^2 \equiv 4, $ $2^3 \equiv 3, $ $2^4 \equiv 1 (\mod 5)$
なつかしの、原始根です!!
そう、$n$が素数のとき、$\mod n$の世界には必ず原始根が存在します!
$\mod 5$の世界では2が原始根となります。
原始根の存在定理が発動できるのです!!!
ここまでのことをまとめると、
$ax^4+bx^3+cx^2+dx+e=0$
と
$x^4+x^3+x^2+x+1=0$
の数学的な違いは以下の2点に集約されます。
1.ド・モアブルの定理が使える
2.原始根の存在定理が使える
これを踏まえて、ラグランジュ・リゾルベントを改造します。
$x$と$\zeta$についての2変数関数$L(x, \zeta)$というものを考えます。
$L$はラグランジュの$L$です。
$L(x, \zeta)=x^2+\zeta x^4+\zeta^2x^3+\zeta^3 x$
とします。
先ほど考察したラグランジュ・リゾルベント
$x_1+\zeta_4x_1^2+\zeta_4^2x_1^3+\zeta_4^3x_1^4$
と比べると、$x$の指数の順番がなんかへんな順番になっています。
この指数は、
$2^1 \equiv 2,$ $2^2 \equiv 4, $ $2^3 \equiv 3, $ $2^4 \equiv 1 (\mod 5)$
を上手く使うために調整をしたのです。
$\mod 5$の世界で2が原始根となることを最大限活用するために指数の順眼を原始根に合わせたと思ってください。
さて、
$L(x, \zeta)=x^2+\zeta x^4+\zeta^2 x^3+\zeta^3 x$
に$x=x_1$と$\zeta=\zeta_4$を代入しましょう。
$L(x_1, \zeta_4)=x_1^2+\zeta_4 x_1^4+\zeta_4^2 x_1^3+\zeta_4^3 x_1$
対称性を高めるため、これを4乗します。
これは今まで3次方程式や4次方程式を対称性に着目して解いた際と同じ発想です。
$\lbrace L(x_1, \zeta_4) \rbrace^4=(x_1^2+\zeta_4 x_1^4+\zeta_4^2 x_1^3+\zeta_4^2 x_1)^4 \cdots ①$
次に、
$L(x, \zeta)=x^2+\zeta x^4+\zeta^2 x^3+\zeta^3 x$
に$x=x_2$と$\zeta=\zeta_4$を代入しましょう。
$\zeta$は$\zeta_4$で固定して、$x$を色々変えてみるわけです。
$L(x_2, \zeta_4)=x_2^2+\zeta_4 x_2^4+\zeta_4^2 x_2^3+\zeta_4^3 x_2$
です。
ここで、$x_2=x_1^2$であったことを思い出すと、
$L(x_2, \zeta_4)=x_1^4+\zeta_4 x_1^8+\zeta_4^2 x_1^6+\zeta_4^3 x_1^2$
となります。$x=1$は$x^5-1=0$の解なので、$x_1^5=1$です。
これに注意すると、最終的には
$L(x_2, \zeta_4)=x_1^4+\zeta_4 x_1^3+\zeta_4^2 x_1+\zeta_4^3 x_1^2$
となります。
$L(x_1, \zeta_4)=x_1^2+\zeta_4 x_1^4+\zeta_4^2 x_1^3+\zeta_4^3 x_1$
と
$L(x_2, \zeta_4)=x_1^4+\zeta_4 x_1^3+\zeta_4^2 x_1+\zeta_4^3 x_1^2$
を比べると、
$x_1^2$ → $x_1^4$ → $x_1^3$ → $x_1$
という並びが
$x_1^4$ → $x_1^3$ → $x_1$ → $x_1^2$
となっていて、グルグル回っています。
このグルグル回っているような並び替えが対称性を考えるうえでめっちゃ大切なのです!!
グルグル回っているということはつまり、
$L(x_2, \zeta_4)=\zeta_4^3 L(x_1, \zeta_4)$
ということです。
これは実際に計算してみると分かります。
$\zeta_4^3 L(x_1, \zeta_4)=\zeta_4^3(x_1^2+\zeta_4 x_1^4+\zeta_4^2 x_1^3+\zeta_4^3 x_1)$
$=\zeta_4^3 x_1^2+\zeta_4^4 x_1^4+\zeta_4^5x_1^3+\zeta_4^6 x_1$
$=\zeta_4^3 x_1^2+x_1^4+\zeta_4x_1^3+\zeta_4^2 x_1$
$=x_1^4+\zeta_4 x_1^3 +\zeta_4^2 x_1+\zeta_4^3x_1^2$
$=L(x_2, \zeta_4)$
です。
ここで、
$L(x_2, \zeta_4)=x_1^4+\zeta_4 x_1^3+\zeta_4 x_1+\zeta_4 x_1^2$
を4乗します。
$\lbrace L(x_2, \zeta_4) \rbrace^4=(x_1^4+\zeta_4 x_1^3+\zeta_4 x_1+\zeta_4 x_1^2)^4\cdots ②$
②に
$L(x_2, \zeta_4)=\zeta_4^3 L(x_1, \zeta_4)$
を代入しましょう。
$(\zeta_4^3)^4=\zeta_4^{12}=1$
なので、
$\lbrace L(x_2, \zeta_4)\rbrace^4= \lbrace L(x_1, \zeta_4)\rbrace^4$
が成立します。
全く同様に、
$\lbrace L(x_3, \zeta_4)\rbrace^4= \lbrace L(x_1, \zeta_4)\rbrace^4$
と
$\lbrace L(x_4, \zeta_4)\rbrace^4= \lbrace L(x_1, \zeta_4)\rbrace^4$
が成立します。
つまりは、
$\lbrace L(x_1, \zeta_4)\rbrace^4= \lbrace L(x_2, \zeta_4)\rbrace^4=\lbrace L(x_3, \zeta_4)\rbrace^4= \lbrace L(x_4, \zeta_4)\rbrace^4 \cdots ③$
が成り立ちます。美しい対称性です。
これを使うと、
$4 \lbrace L(x_1, \zeta_4)\rbrace^4= \lbrace L(x_1, \zeta_4)\rbrace^4 + \lbrace L(x_1, \zeta_4)\rbrace^4+ \lbrace L(x_1, \zeta_4)\rbrace^4+ \lbrace L(x_1, \zeta_4)\rbrace^4$
というなんとも当たり前な式が、
$4 \lbrace L(x_1, \zeta_4)\rbrace^4= \lbrace L(x_1, \zeta_4)\rbrace^4 + \lbrace L(x_2, \zeta_4)\rbrace^4+ \lbrace L(x_3, \zeta_4)\rbrace^4+ \lbrace L(x_4, \zeta_4)\rbrace^4$
という超すごい式に変身します。
両辺を4で割りましょう。
$\lbrace L(x_1, \zeta_4)\rbrace^4= \dfrac{1}{4} [\lbrace L(x_1, \zeta_4)\rbrace^4 + \lbrace L(x_2, \zeta_4)\rbrace^4+ \lbrace L(x_3, \zeta_4)\rbrace^4+ \lbrace L(x_4, \zeta_4)\rbrace^4]$
右辺は$x_1, x_2, x_3, x_4$の対称式です。
よって、対称式の基本定理と解と係数の関係のコンボより、
右辺は$\zeta_4$と
$x^4+x^3+x^2+x+1$の係数で表されます。
この値を$A$と置くことにしましょう。
$\lbrace L(x_1, \zeta_4)\rbrace^4=A$ ($A$は$\zeta_4$と有理数で表されている)
です。
4乗根をとりましょう。
$L(x_1, \zeta_4)=\sqrt[4]{A}$ ($A$は$\zeta_4$と有理数で表されている)
ここで、
$L(x, \zeta)=x^2+\zeta x^4+\zeta^2 x^3+\zeta^3 x$
に $\zeta=\zeta_4^2$
を代入して固定し、
$x=x_1, x_2, x_3, x_4$を代入していって順次同様の議論を展開すると、
$L(x_1, \zeta_4^2)=\sqrt[4]{B}$ ($B$は$\zeta_4$と有理数で表されている)
となります。
$\zeta=\zeta_4^3$ のときと$\zeta=\zeta_4^4$の場合も同様に
$L(x_1, \zeta_4^3)=\sqrt[4]{C}$ ($C$は$\zeta_4$と有理数で表されている)
$L(x_1, \zeta_4^4)=\sqrt[4]{D}$ ($D$は$\zeta_4$と有理数で表されている)
となります。
したがって、
$x_1^2+\zeta_4 x_1^4+\zeta_4^2 x_1^3+\zeta_4^3 x_1=\sqrt[4]{A}\cdots ㋐$
$x_1^2+\zeta_4 ^2x_1^4+\zeta_4^4 x_1^3+\zeta_4^2 x_1=\sqrt[4]{B}\cdots ㋑$
$x_1^2+\zeta_4 ^3x_1^4+\zeta_4^2 x_1^3+\zeta_4 x_1=\sqrt[4]{C}\cdots ㋒$
$x_1^2+ x_1^4+ x_1^3+ x_1=\sqrt[4]{D}\cdots ㋓$
となります。
ここで、
$x_1=x_1^1, x_2=x_1^2, x_3=x_1^3, x_4=x_1^4$
を思い出して整理し、先ほどの4つの式を
$x_1, x_2, x_3, x_4$の連立方程式と捉えなおします。
$x_2+\zeta_4 x_4+\zeta_4^2 x_3+\zeta_4^3 x_1=\sqrt[4]{A}\cdots ㋐$
$x_2+\zeta_4 ^2x_4+(\zeta_4^2)^2 x_3+(\zeta_4^2)^3 x_1=\sqrt[4]{B}\cdots ㋑$
$x_2+\zeta_4 ^3x_4+(\zeta_4^3)^2 x_3+(\zeta_4^3)^3 x_1=\sqrt[4]{C}\cdots ㋒$
$x_2+ x_4+ x_3+ x_1=\sqrt[4]{D}\cdots ㋓$
㋐+㋑+㋒+㋓より、
$4x_2+(\zeta_4+\zeta_4^2+\zeta_4^3+1)x_4$
$+\lbrace \zeta_4^2+(\zeta_4^2)^2+(\zeta_4^2)^3+1\rbrace x_3$
$+\lbrace \zeta_4^3+(\zeta_4^3)^2+(\zeta_4^3)^3+1\rbrace x_1$
$=\sqrt[4]{A}+\sqrt[4]{B}+\sqrt[4]{C}+\sqrt[4]{D}\cdots ㋔$
となります。ここで、$\zeta_4, \zeta_4^2, \zeta_4^3$は、
$x^4-1=0$の解です。
$x^4-1=(x-1)(x^3+x^2+x+1)$
ですから、
$x^3+x^2+x+1=0$
であり、
$\zeta_4^3+\zeta_4^2+\zeta_4+1=0$
$(\zeta_4^2)^3+(\zeta_4^2)^2+\zeta_4^2+1=0$
$(\zeta_4^3)^3+(\zeta_4^3)^2+\zeta_4^3+1=0$
です。
したがって、㋔の左辺の係数は大体のやつは0になり、
$4x_2=\sqrt[4]{A}+\sqrt[4]{B}+\sqrt[4]{C}+\sqrt[4]{D}$
です。
両辺を4で割ると、
$x_2=\dfrac{1}{4}(\sqrt[4]{A}+\sqrt[4]{B}+\sqrt[4]{C}+\sqrt[4]{D})$
となります。よって、$x_2$が$\zeta_4$と有理数とべき根によってあらわされることが分かり、
$x_1^2=x_2, x_3=x_1^3, x_4=x_1^4$
から、他の解もべき根で表されることが分かります。
めでたしめでたし。
とはいきません。
1つ突っ込みどころがあります。
これまでの議論で、
$x^5-1=0$の解が$\zeta_4$と有理数とべき根で表されることが分かりました。
$\zeta_4$は$x^4-1=0$の解だったので、少しいいかえると、
$x^5-1=0$の解が$x^4-1=0$の解と、有理数と、べき根で表されることが分かりました。
で、$x^4-1=0$がべき根で解けることは誰が保証してくれるんだい?という点が突っ込みどころです。
もちろん、$\zeta_4=i=\sqrt{-1}$なので、$\zeta_4$がべき根で表されていることは明らかですが、
一般の場合はそうはいきません。
これまでの議論を一般化するため、$5$を$p$に、$4$を$p-1$に置き換えると、
以下のようになります。
予想「$x^p-1=0$の解は$x^{p-1}-1=0$の解と、有理数と、べき根で表される」
$x^p-1=0$の議論を進めるにあたって、$x^{p-1}-1=0$がべき根で解けることは暗黙の了解として使いたいんです。
だから数学的帰納法を使おう!という発想に至ることになります。
では、これまでの流れを一般化して証明へと駒を進めていきましょう。
なお、原始根の存在証明については以下の記事をご覧ください
1のn乗根がべき根で解けることの証明
(定理)
$n$を自然数とする。
このとき、$x^n-1=0$はべき根で解ける
(証明)
$n=2$の場合に$x^n-1=0$がべき根で解けることは明らか。
$n=3$の場合に$x^3-1=0$がべき根で解けることも、2次方程式の解の公式を用いれば明らか。
ここで、$n$が4以上の合成数である場合を数学的帰納法(累積帰納法)によって示す。
いま、$n$より小さいすべての自然数$l$について$x^l-1=0$がべき根で解けると仮定する。
このとき、$x^n-1=0$がべき根で解けることを示せばよい。
いま、$n$は合成数であるので、$n$より小さい数$a, b$を用いて
$n=ab$と掛け算に分解することができる。
ここで、$x^n-1=x^{ab}-1=(x^a)^b-1$
である。
$(x^a)^b-1=0$について、
$T=x^a$と置く。
$T^b-1=0$である。
いま、$1$の$b$乗根を$\zeta_{b}^k$ ($k=1, 2, \cdots, b$)
とすると、
$T^b-1=0$の解は
$T=\zeta_{b}^k$となる。
いま、$T=x^a$であったので、
$x^a=\zeta_{b}^k$である。
したがって、$x^n-1=0$の解は
$x=\sqrt[a]{\zeta_b^k}\zeta_a^m$ ($k=1, 2, \cdots, b$ $m=1, 2, \cdots, a$)
となり、べき根で表されることが分かる。
あとは、$n$が素数の場合を示すことができればよい。
$p$を$5$以上の素数とする。
ここでも数学的帰納法を利用する。
いま、$n=p-1$のとき、$x^{p-1}-1=0$がべき根で解けると仮定する。
このとき、$n=p$で$x^p-1=0$がべき根で解けることを示せばよい。
$p$は素数であるので、$\mod p$において必ず原始根が存在する。
それを$g$とおくと、$g$は$\mod p$において、$p-1$乗して初めて1と合同になる数である。
ゆえに、$g, g^2, g^3, \cdots, g^{p-1}$は$p$を法としてこの順番ではないものの、全体としては
$1, 2, 3, \cdots, p-1$と合同となり、重複はない。(既約剰余類になっている)
ここで$x^p-1=(x-1)(x^{p-1}+x^{p-2+}\cdots +x+1)$
である。
$x^{p-1}+x^{p-2+}\cdots +x+1=0$
の解を$x_1, x_2, \cdots, x_{p-1}$とすると、
ド・モアブルの定理より
$x_1=x_1^1, x_2=x_1^2, \cdots, x_{p-1}=x_1^{p-1}$
である。
ここで、$g$が法$p$における原始根であることから、
$\lbrace x_1, x_1^2, \cdots, x_1^{p-1}\rbrace =\lbrace x_1, x_1^{g}, x_1^{g^2}, \cdots, x_1^{g^{p-2}}\rbrace$
となる。(※$x_1^{g^{p-1}}=x_1$です。)
ここで、$x^{p-1}-1=0$の解を
$x=\zeta_{p-1}, \zeta_{p-1}^2, \cdots, \zeta_{p-1}^{p-1}(=1)$とする。
また、
$L(x, \zeta)=x^{g}+\zeta x^{g^2}+\zeta^2x^{g^3}+\cdots +\zeta^{p-2}x$
と定める。(※$x_1^{g^{p-1}}=x_1$です。)
$L(x, \zeta)$に$x=x_1$と$\zeta=\zeta_{p-1}$を代入する。
$L(x_1, \zeta_{p-1})=x_1^{g}+\zeta_{p-1} x_1^{g^2}+\zeta_{p-1}^2x_1^{g^3}+\cdots +\zeta_{p-1}^{p-2}x_1$
ここで、
$L(x, \zeta)$に$x=x_1^{g}$と$\zeta=\zeta_{p-1}$を代入する。
$L(x_1^g, \zeta_{p-1})=x_1^{g^2}+\zeta_{p-1} x_1^{g^3}+\zeta_{p-1}^2x_1^{g^4}+\cdots +\zeta_{p-1}^{p-2}x_1^g$
であり、
$L(x_1^g, \zeta_{p-1})=\zeta_{p-1}^{p-2}(x_1^{g}+\zeta_{p-1} x_1^{g^2}+\zeta_{p-1}^2x_1^{g^3}+\cdots +\zeta_{p-1}^{p-2}x_1)$
が分かる。
よって、
$L(x_1^g, \zeta_{p-1})=\zeta_{p-1}^{p-2}L(x_1, \zeta_{p-1})$
となり、この両辺を$p-1$乗すると、
$\lbrace L(x_1^g, \zeta_{p-1})\rbrace^{p-1}=\lbrace L(x_1, \zeta_{p-1})\rbrace^{p-1}$
である。
$L(x_1^{g^2}, \zeta_{p-1}), \cdots, L(x_1^{g^{p-1}}, \zeta_{p-1})$
についても同様のことが成り立ち、
$\lbrace L(x_1, \zeta_{p-1})\rbrace^{p-1}=\lbrace L(x_1^g, \zeta_{p-1})\rbrace^{p-1}= \cdots =\lbrace L(x_1^{g^{p-1}}, \zeta_{p-1}) \rbrace^{p-1}$
である。
よって、
$(p-1)\lbrace L(x_1, \zeta_{p-1})\rbrace^{p-1}=\lbrace L(x_1, \zeta_{p-1})\rbrace^{p-1}+\lbrace L(x_1^g, \zeta_{p-1})\rbrace^{p-1}+\cdots +\lbrace L(x_1^{g^{p-1}}, \zeta_{p-1}) \rbrace^{p-1}$
が成立し、両辺を$p-1$で割ると、
$\lbrace L(x_1, \zeta_{p-1})\rbrace^{p-1}=\dfrac{1}{p-1} [\lbrace L(x_1, \zeta_{p-1})\rbrace^{p-1}+\lbrace L(x_1^g, \zeta_{p-1})\rbrace^{p-1}+\cdots +\lbrace L(x_1^{g^{p-1}}, \zeta_{p-1}) \rbrace^{p-1}]$
となる。この右辺の式は$x_1, x_1^{g}, \cdots, x_1^{g^{p-2}}$についての対称式であり、
対称式の基本定理と$x^{p-1}+\cdots +x+1=0$についての解と係数の関係から、
$\zeta_{p-1}$と有理数で表される。その値を$A_1$とする。
$\lbrace L(x_1, \zeta_{p-1})\rbrace^{p-1}=A_1$である。
よって、
$L(x_1, \zeta_{p-1})=\sqrt[p-1]{A_1}$
となる。
同様の議論から、
$A_2, A_3, \cdots, A_{p-1}$が定まり、
$L(x_1, \zeta_{p-1})=\sqrt[p-1]{A_1}$
$L(x_1, \zeta_{p-1}^2)=\sqrt[p-1]{A_2}$
$L(x_1, \zeta_{p-1}^3)=\sqrt[p-1]{A_3}$
$\ldots$
$L(x_1, \zeta_{p-1}^{p-1})=\sqrt[p-1]{A_{p-1}}$
である。これらの式を足し、
$(x_1^{g^k})^{p-1}+\cdots x_1^{g^k}+1=0$ ($k=1, 2, \cdots, p-1$)
に気を付けると、
$(p-1)x_1^g=\sqrt[p-1]{A_1})+\cdots +\sqrt[p-1]{A_{p-1}}$
となり、
$x_1^g=\dfrac{1}{p-1}(\sqrt[p-1]{A_1})+\cdots +\sqrt[p-1]{A_{p-1}})$
となる。
$g$が法$p$における原始根であることから、
$x_1, x_2, \cdots, x_{p-1}$は$x_1^g$のべき乗で表される。
仮定より、$\zeta_{p-1}$はべき根で表されているので、以上のことから、
$x^{p}-1=0$はべき根で解けることが示された。
したがって、全ての自然数$n$について、
$x^n-1=0$はべき根で解ける
(証明終了)
まとめ
ここまで読んでいただき、恐悦至極です。
よくここまでたどり着いてくださいました!
マジでありがとうございます!
・1のn乗根がべき根で解けることを示す際にもラグランジュ・リゾルベントが活躍する
この点を頭の片隅に置いておいていただければと思います。
今回まで、2次方程式、3次方程式、4次方程式、$x^n-1=0$が解ける仕組みを観察してきました。
次回からは、いよいよこの観察結果から解ける方程式の規則性を見つけ出していく段階に移っていこうと思います。
その過程でガロアが導き出したマジ超天才的なアイデアの片鱗に触れることになりますので、ご期待ください。
参考
[1] 矢ケ部巌, 数Ⅲ方式ガロアの理論(新装版), 現代数学社, 2016
画像素材提供(アイキャッチ):Larisa KoshkinaによるPixabayからの画像
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