対称式の基本定理の証明を分かりやすく丁寧に

対称式の基本定理

高校の数学Ⅱで対称式について習います。

そこで、経験的に「対称式は全て基本対称式で表すことができる」という事実を悟ると思うのですが、

それを証明できる人はほとんどいないと思います。

今回は、対称式の基本定理を具体例を交えながら丁寧に証明していきます!

目次

対称式と基本対称式について

そもそも対称式とはなんでしょう?

例えば、

$\alpha +\beta$

は対称式です。

しかし

$\alpha^2 +\beta$

は対称式ではありません。

この2つの違いは何か?

それは、文字を入れ替えて等しいかどうかという点です。

$\alpha +\beta$

については、$\alpha$と$\beta$を入れ替えることができます。

$\alpha +\beta =\beta +\alpha$

しかし、$\alpha^2 +\beta$については、次数がばらついているので入れ替えができません

$\alpha^2+\beta \neq \beta^2+\alpha$

対称式を定義するにあたっては、多変数の表記を使います。

そんなに難しくはないのですが、慣れが必要なので具体例を確かめておきましょう。

例えば、$x$についての多項式を

$f(x)=x^2+x+3$

みたいな感じで$f(x)$と表しました。

文字が増えても同じノリで表すことができます。

例えば、$x$と$y$についての多項式は$f(x, y)$で表されます。

$f(x, y)=x^2+y^2+3xy$

みたいな感じです。

同様に、$x$と$y$と$z$の多項式なら$f(x, y, z)$です。

これで対称式を定義する準備ができました。

短くまとめると、文字の入れ替えで不変に保たれる多項式のことを対称式といいます。

(定義)

$n$この文字についての多項式

$f(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_n)$

が$n$の文字の並び替えすべてについて不変に保たれるとき、

$f(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_n)$を対称式であるという。

ちなみに、$n$個の文字の並び替えは、全部で$n!$通りあります。

対称式というのは、結構キツイ条件であることが分かりますね。

さて、対称式のうち、基本的なものを基本対称式と言います。

たとえば、

文字が$\alpha$と$\beta$の2個の場合は

$\alpha+\beta$

$\alpha \beta$

が基本対称式です。

文字が$\alpha$と$\beta$と$\gamma$の3つの場合は、

$\alpha +\beta+\gamma$

$\alpha \beta+\beta \gamma +\gamma \alpha$

$\alpha \beta \gamma$

が基本対称式となります。

基本対称式は、古典的な方程式論と密接な関りがあるので、

すこし紹介しておこうと思います。

例えば、2次方程式の解と係数の関係を思い出してみましょう。

簡略のため、最高次の係数は1とします。(最高次の係数が1のとき、モニックといいます)

2次方程式$x^2+ax+b$の2つの解を

$x=\alpha, \beta$とします。

すると、因数定理より

$x^2+ax+b=(x-\alpha)(x-\beta)$

が成り立ちます。右辺を展開して整理すると、

$x^2+ax+b=x^2-(\alpha +\beta)x+\alpha \beta$

となり、係数比較をすると

$a=-(\alpha +\beta)$

$b=\alpha \beta$

となり、解と係数の関係が得られるのですが、

途中で出てきた

$\alpha +\beta$ と $\alpha \beta$

は基本対称式そのものですよね。

そう。

基本対称式とは、

方程式の解と係数の関係に登場するやつら

のことだったのです。

このことをもう少し詳しく解説した記事があるので、よければご覧ください。

対称式と基本対称式に慣れよう!

対称式と基本対称式に慣れるのには問題演習が一番です。

(問題1)

$\alpha^2+\beta^2$

を基本対称式で表せ

(問題1の解説)

基本対称式は

$\alpha +\beta$ と $\alpha \beta$

です。

まず$\alpha +\beta$に注目しましょう。

これは1次の式です。

一方で、$\alpha^2+\beta^2$は2次の式です。

次数を上げる必要があります。

ここで、足し算、引き算、掛け算、割り算のうち、

次数を上げることができるのはどれか、ということを考えましょう。

掛け算ですよね。

なので、$\alpha +\beta$を二乗します。

$(\alpha +\beta)^2=\alpha^2+2\alpha \beta +\beta^2$

あとは、左辺の$2\alpha \beta$を移項すれば完了です。

$\alpha^2+\beta^2=(\alpha +\beta)^2-2\alpha \beta$

この調子で次の問題もやってみましょう!

(問題2)

$\alpha^3 +\beta^3$

を基本対称式で表せ

(問題2の解説)

ほぼ問題1と同じノリです。

今度は$\alpha +\beta$を三乗しましょう

$(\alpha + \beta)^3=\alpha^3+3\alpha^2\beta+3\alpha \beta^2+\beta^3$

余分なものを移項して整理すると

$\alpha^3+\beta^3=(\alpha +\beta)^3-3\alpha^2\beta-3\alpha\beta^2$

よって、

$\alpha^3+\beta^3=(\alpha+\beta)^3-3\alpha \beta(\alpha +\beta)$

となります。

では、ラストです

(問題3)

$\alpha^3\beta+\alpha \beta^3+\alpha^3\gamma +\alpha \gamma^3+\beta^3\gamma+\beta\gamma^3$

を基本対称式で表せ

(問題3の解説)

お気づきでしょうか

問題3が問題1や問題2と比べて別次元に難しいということに。

難しい問題に出会ったときの対処法は、難しい原因を分析する、です。

今回の問題が難しい原因はなんでしょう?

一つは、文字が3つである点です。

問題1と問題2では文字が2つだったのに、いきなり3つになったらそりゃ難しいです。

そこで、今回は文字3つなんですが、なんとか文字2つの話に落とし込めないかな?

という発想でアプローチしていくことになります。

ここで、注意点が1つ。

それは、文字が2つの場合の基本対称式と、3つの場合の基本対称式は異なるという点です。

文字が2つの場合の基本対称式は

$\alpha +\beta$

$\alpha \beta$

でした。

一方、文字が3つだと、

$\alpha +\beta+\gamma$

$\alpha \beta+\beta \gamma +\gamma \alpha$

$\alpha \beta\gamma$

の3つです。

そこで、便宜上こいつらに添え字を振って区別することにしましょう。

「対称」という言葉は英語でシンメトリーというので、$s$を使うことにします。

$s_1=\alpha +\beta+\gamma$

$s_2=\alpha \beta+\beta \gamma +\gamma \alpha$

$s_3=\alpha \beta\gamma$

としましょう。

あと、文字が2つの場合の基本対称式を文字で置く必要があります。

しかし文字が足りないので、

苦肉の策でチェックをつけて対処することにします。

$\breve{s_1}=\alpha +\beta$

$\breve{s_2}=\alpha \beta$

とします。

$f(\alpha, \beta, \gamma)=\alpha^3\beta+\alpha \beta^3+\alpha^3\gamma +\alpha \gamma^3+\beta^3\gamma+\beta\gamma^3$

とします。

いきなり文字3つの対処は難しいので、まずは$\gamma=0$を代入して2変数で考えます。

$f(\alpha, \beta, 0)=\alpha^3\beta+\alpha \beta^3$

これなら2文字の基本対称式$\breve{s_1}$と$\breve{s_2}$で表せます。

$f(\alpha, \beta, 0)=\alpha^3\beta+\alpha \beta^3$

$=\alpha \beta(\alpha^2+\beta^2)$

$=\alpha \beta \lbrace (\alpha +\beta)^2-2\alpha \beta\rbrace$

$=\breve{s_2}(\breve{s_1}^2-2\breve{s_2})$

ここから少しアクロバティックなことをします。

何をするかというと、

$f(\alpha, \beta, \gamma)-s_2(s_1^2-2s_2)$

というものを考えます。

$\breve{s_1}$ではなく$s_1$を、$\breve{s_2}$ではなく$s_2$を使っている点に気を付けてください。

文字2つの基本対称式ではなく、文字3つの基本対称式を使うわけです。

本来3つの文字の話をしていたので、話を元に戻しているイメージです。

$F(\alpha, \beta, \gamma)=f(\alpha, \beta, \gamma)-s_2(s_1^2-2s_2)$

とおきます。

計算は結構大変です。まず$s_2s_1^2-2s_2$を計算しましょう。

$s_2(s_1^2-2s_2)=(\alpha \beta+\beta \gamma \gamma\alpha)\lbrace (\alpha +\beta+\gamma)^2-2(\alpha \beta +\beta \gamma +\gamma \alpha)$

$=(\alpha \beta +\beta \gamma +\gamma \alpha)(\alpha^2+\beta^2+\gamma^2)$

$=f(\alpha, \beta, \gamma)+\alpha^2\beta \gamma +\alpha \beta^2\gamma \alpha \beta \gamma^2$

です。よって、

$F(\alpha, \beta, \gamma)=f(\alpha, \beta, \gamma)-s_2(s_1^2-2s_2)$

$=f(\alpha, \beta, \gamma)-f(\alpha, \beta, \gamma)-(\alpha^2\beta \gamma +\alpha \beta^2\gamma \alpha \beta \gamma^2)$

$=-(\alpha^2\beta \gamma +\alpha \beta^2\gamma \alpha \beta \gamma^2)$

$=-\alpha \beta\gamma (\alpha +\beta+\gamma)$

$=-s_3s_1$

つまり、

$f(\alpha, \beta, \gamma)-s_2(s_1^2-2s_2)=-s_3s_1$

であり、

$f(\alpha , \beta, \gamma)=s_2(s_1^2-2s_2)-s_3s_1$

となります。

したがって、

$\alpha^3\beta+\alpha \beta^3+\alpha^3\gamma +\alpha \gamma^3+\beta^3\gamma+\beta\gamma^3$

は基本対称式で表されました!

はい。

実はこれで対称式の基本定理の証明の核心部分は終わりました。

証明のポイントは、

①まずは一文字減らした状態で考えること

②つぎに一文字減らした対称式ではなく、使いたい基本対称式を代入して差を取ること

③すると、うまいこと$\alpha \beta \gamma$で因数分解できること(青色マーカーのところです)

④完了

では証明に移っていきましょう。

問題3で文字3つの場合を示すのに文字2つの場合を上手く使ったように、

文字が$n$この場合は文字が$n-1$この場合を使いそうです

すなわち、数学的帰納法を用います。

対称式の基本定理の証明

(対称式の基本定理)

$n$この文字の多項式

$f(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_n)$

が対称式である場合、それは基本対称式

$s_1, s_2, \cdots, s_n$の多項式

$g(s_1, s_2, \cdots, s_n)$

で表すことができる。

要するに、

$f(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_n)=g(s_1, s_2, \cdots, s_n)$

となる$g$が存在するよ、という主張です。

(証明)

文字の個数$n$についての数学的帰納法で示す。

$i)$ $n=1$のときに対称式の基本定理が成り立つことを示す

このとき、文字は$\alpha_1$のみである。

1つの文字の入れ替え方は、入れ替えないという1通りしかない。

ゆえに$\alpha_1$の多項式は全て対称式となる。

また、文字が1つの場合の基本対称式は、

$s_1=\alpha_1$

である。

したがって、$n=1$のとき、対称式は必ず基本対称式で表される$\cdots ①$

$ii)$ $n=k$で対称式の基本定理が成り立つと仮定し、$n=k+1$でも成り立つことを示す。

$k+1$この文字についての対称式

$f(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_k, \alpha_{k+1})$

を任意にとる。

これが文字$k+1$この場合の基本対称式

$s_1, s_2, \cdots, s_{k+1}$

で表されればよい。

ここで、

$f(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_k, \alpha_{k+1})$

において、

$\alpha_{k+1}=0$としたものを

$\breve{f}(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_k)$とおく。

$\breve{f}(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_k)=f(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_k, 0)$

である。

$\breve{f}(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_k)$

は$k$この文字$\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_k$につての対称式であるので、

帰納法の仮定より、文字が$k$この場合の基本対称式で表すことができる。

文字が$k$この場合の基本対称式を

$\breve{s_1}, \breve{s_2}, \cdots, \breve{s_k}$

とおくと、

$\breve{f}(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_k)=\breve{g}(\breve{s_1}, \breve{s_2}, \cdots, \breve{s_k})$

となる多項式

$\breve{g}(\breve{s_1}, \breve{s_2}, \cdots, \breve{s_k})$

が存在する。

ここで、この$\breve{g}(\breve{s_1}, \breve{s_2}, \cdots, \breve{s_k})$

について、$\breve{s_i}$を$s_i$ $(i=1, 2, \cdots, k)$に置き換えた

$\breve{g}(s_1, s_2, \cdots, s_k)$

を用いて$F(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_{k+1})$

$F(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_{k+1})=f(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_k, \alpha_{k+1})-\breve{g}(s_1, s_2, \cdots, s_k)$

と定義する。

$F(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_{k+1})$は$k+1$この文字についての対称式となっている。

$F(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_{k+1})=f(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_k, \alpha_{k+1})-\breve{g}(s_1, s_2, \cdots, s_k)$

に$\alpha_{k+1}=0$を代入する。

$f(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_k, 0)=\breve{f}(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_k)$

$\breve{f}(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_k)=\breve{g}(\breve{s_1}, \breve{s_2}, \cdots, \breve{s_k})$

より、

$F(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, 0)=0$

である。

したがって、

$F(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_{k+1})$

は$\alpha_{k+1}$で割り切れなくてはならない。

ここで、

$F(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_{k+1})$

は$k+1$この文字の対称式であったため、

$\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_{k+1}$

は対等でなければならない。

ゆへに、

$F(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_{k+1})$

が$\alpha_{k+1}$で割り切れるなら、

$F(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_{k+1})$

は$\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_{k+1}$のすべてで割り切れなければならない。

$F(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_{k+1})$

を$\alpha_1×\alpha_2×\cdots×\alpha_{k+1}$で割った後の多項式を

$f_1(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_{k+1})$

とおくと、

$F(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_{k+1})=\alpha_1×\alpha_2×\cdots×\alpha_{k+1}×f_1(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_{k+1})$

となり、

$\alpha_1×\alpha_2×\cdots×\alpha_{k+1}$が基本対称式$s_{k+1}$そのものであることに注意すると、

$F(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_{k+1})=s_{k+1}×f_1(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_{k+1})$

となり、

$f(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_{k+1})=\breve{g}(\breve{s_1}, \breve{s_2}, \cdots, \breve{s_k})+s_{k+1}×f_1(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_{k+1})$

となる。

$f(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_{k+1})$と$\breve{g}(\breve{s_1}, \breve{s_2}, \cdots, \breve{s_k}+s_{k+1})$と$s_{k+1}$が対称式であることから、

$f_1(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_{k+1})$

も対称式である。

よって、

$f(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_{k+1})$

が基本対称式で表されるためには、

$f_1(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_{k+1})$

が基本対称式で表されればよい。

ここで、$f_1(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_{k+1})$の次数は$f(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_{k+1})$

より低いことに注意すると、

$f(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_{k+1})$

に対してここまで行ってきた議論と同様のことをすることによって

$f_1(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_{k+1})$

よりさらに次数の低い対称式

$f_2(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_{k+1})$

が定まる。

これを繰り返しておくことによってついには

$f(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_{k+1})$

が基本対称式で表されることが分かる$\cdots ②$

①と②より、数学的帰納法から、対称式の基本定理は成り立つ。

(証明終了)

まとめ

いかができたか?

高校数学でたまに使う対称式の基本定理。

存在は知っていても、証明は教えて貰えない定理ナンバーワン(マスタノ調べ)です。

これも証明できたんだな、ということだけ知っていただければと思います

ではまた次回の記事でお会いしましょう!

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