有理化の本当の意味を知っていますか?
有理化のおさらい
学校で何気なく習う有理化。
この記事では、有理化の本当の意味について考えていきます。
有理化とは、分母根号があるものを、分母に根号がない形に変形する作業のことをいいます。
例えば、$\dfrac{1}{\sqrt{2}}$の場合を考えましょう。
分母に$\sqrt{2}$があるので、有理化します。
$\dfrac{1}{\sqrt{2}}=\dfrac{1×\sqrt{2}}{\sqrt{2}×\sqrt{2}}=\dfrac{\sqrt{2}}{2}$
となります。
で、これってなんの意味があるの? というのが今回のお話です。
一つは数値測定をしやすくするというものがあります。
$\sqrt{2}=1.4142\cdots$
を踏まえると、$\dfrac{1}{\sqrt{2}}=\dfrac{1}{1.4142\cdots}$ということになりますが、ぱっと見どのくらいの値なのか分かりずらいです。
しかし、$\dfrac{\sqrt{2}}{2}=\dfrac{1.4142\cdots}{2}$であれば、ぱっと見で大体0.7くらいだと分かります。
このように、数値想定をしやすくするというのも有理化の一つの利点です。
物理の実験などでは測定結果のおおよその値を予測するのに便利です。
しかし、数値測定的な意味だけでなく、もっと純粋に数学的な必然性が有理化にはあります。
体(たい)という概念
有理化の本当の意味を理解するには、体という概念が必要になります。
色々難しい定義はあるのですが、ここでは単純に四則演算で閉じた集合のことを体と呼ぶことにします。
具体例を考えてみましょう。
例えば自然数全体の集合$\mathbb{N}= \lbrace 1, 2, 3, 4, \cdots \rbrace$を考えます。
$1+4=5\in \mathbb{N}$から分かるように、$\mathbb{N}$は加法について閉じています。
しかし、$2-5=-3$であり、-3は自然数ではないので、$\mathbb{N}$は減法については閉じていません。
よって、自然数全体の集合は体ではありません。
では整数全体の集合$\mathbb{Z}$はどうでしょうか?
加法・減法・乗法については閉じています。
しかし、$1÷3=0.333333\cdots$であり、これは整数になりません。
よって、整数全体の集合も体ではありません。
では有理数全体の集合$\mathbb{Q}=\lbrace \dfrac{b}{a}\mid a, b\in \mathbb{Z} \rbrace$はどうでしょうか?
これは加法・減法・乗法・除法全てで閉じてます。よって、$\mathbb{Q}$は体です。
実数全体の集合$\mathbb{R}$や、複素数全体の集合$\mathbb{C}$も体です。
では、有理数$\mathbb{Q}$に$\sqrt{2}$を添加した集合$\mathbb{Q} (\sqrt{2})= \lbrace a+b\sqrt{2} \mid a, b \in \mathbb{Q} \rbrace$はどうでしょうか?
体になるでしょうか?
$( a_1 + b_1 \sqrt{2} ) + ( a_2+ b_2 \sqrt{2})=(a_1+a_2)+(b_1 + b_2)\sqrt{2}$なので、加法については閉じています。
同様に、減法についても閉じています。
$( a_1 + b_1 \sqrt{2} ) – ( a_2+ b_2 \sqrt{2})=(a_1-a_2)+(b_1 – b_2)\sqrt{2}$
乗法は若干面倒です。
$( a_1 + b_1 \sqrt{2} ) × ( a_2+ b_2 \sqrt{2})=a_1 a_2+a_1 b_2 \sqrt{2}+b_2 a_2 \sqrt{2} + 2 b_1b_2=(a_1a_2+2b_1b_2)+(a_1b_2+b_2a_2)\sqrt{2}$なので、乗法についても閉じています。では除法は?
$ \dfrac{a_1+b_1 \sqrt{2}}{a_2 + b_2 \sqrt{2}}$が$〇 + △ \sqrt{2}$という形で表されればよいことになります。ただし、〇と△は有理数です。
そう、これを確かめるために有理化を使うのです!!
$\dfrac{a_1+b_1 \sqrt{2}}{a_2 + b_2 \sqrt{2}}=\dfrac{(a_1+b_1 \sqrt{2})×(a_2-b_2\sqrt{2})}{(a_2 + b_2 \sqrt{2})×(a_2-b_2 \sqrt{2})}=\dfrac{a_1a_2-a_1b_2\sqrt{2}+b_1a_2\sqrt{2}-2b_1b_2}{a_2^2 – 2b_2 ^2}=\dfrac{a_1a_2-2b_1b_2}{a_2 ^2-2 b_2^2}+\dfrac{b_1a_2-a_1b_2}{a_2 ^2-2 b_2^2} \sqrt{2}$
となり、$\dfrac{a_1a_2-2b_1b_2}{a_2 ^2-2 b_2^2}$と$\dfrac{b_1a_2-a_1b_2}{a_2 ^2-2 b_2^2}$は有理数なので、$\mathbb{Q} (\sqrt{2})$は除法についても閉じていることになり、体となります。
このように、
有理化は除法について閉じているかどうかを調べるために必然的に行う計算
なのです。
補足
今回の記事では、$\mathbb{Q} (\sqrt{2})$という見慣れない集合が登場しました。
これが体になりますよ。体になることを確かめるために有理化が有効なんですよ、というのが今回の要点です。
$\mathbb{Q}$に$\sqrt{2}$を添加して$\mathbb{Q} (\sqrt{2})= \lbrace a+b\sqrt{2} \mid a, b \in \mathbb{Q} \rbrace$を新たにつくる、というところが初見では中々捉えにくく、なんでこんなことするの?と疑問に思うことと思います。
僕もそうでした。でもこれ、実は高校数学ですでに似たようなことを経験しているんです。
どこで習うかというと、複素数の単元です。
数学Ⅱで初めて複素数を習ったときのことをぼんやり思い浮かべてください。
複素数$a+bi$について、$a$を実部、$b$を虚部と言いますよ、$a$と$b$は実数で、$i$は虚数単位ですよ、といった感じだったと思います。
これを集合を使って表現しようと思います。
実数全体の集合を表す記号$\mathbb{R}$、複素数全体の集合を表す記号$\mathbb{C}$に留意しましょう。
複素数全体の集合$\mathbb{C}$について、$\mathbb{C}=\lbrace a+bi \mid a, b \in \mathbb{R} \rbrace$です。
つまり高校の数学Ⅱでは、$\mathbb{C}$は$\mathbb{R}$に$i$を添加したものであり、$\mathbb{C}=\mathbb{R}(i)$ですよ、ということを実は習っていたのです。
数の世界を広げていくのに添加という考え方が大活躍します。
今後も添加の考え方を使う場面が結構出てくるので、慣れておいてください。
続編
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