今回は、体の同型写像が四則演算を保存することを証明していきます。
体の同型写像とは?
まず、体とは四則演算で閉じた集合でした。
例えば、自然数$\mathbb{N}$
は足し算で閉じてますが、引き算で閉じていないので体ではないです。
有理数$\mathbb{Q}$まで数の世界を広げると、これは体になります。
さて。
数学的な構造をもった集合を扱う場合にぜひとも気にしておきたい視点として、
「似ているか、似ていないか、という基準を設定したい」
というものがあります。
以前に「群」についてこれを考えたことがありました。
群の場合は、具体例の観察の結果
「$f(a*b)=f(a)〇f(b)$
を満たす全単射$f$が存在する」
ということが「似ている」という状態を上手く表す条件である、
ということが分かったため、この$f$を同型写像と呼ぶことにしたのでした。
詳しくは以下の記事をご覧ください
今回は、これを体の場合に拡張していきます。
体は四則演算で閉じた集合なので、
先ほどの
$f(a*b)=f(a)〇f(b)$
という式に$*$と$〇$の部分を少しいじってあげましょう。
$f(a+b)=f(a)+f(b)\cdots ①$
$f(a-b)=f(a)-f(b)\cdots ②$
$f(a×b)=f(a)×f(b)\cdots ③$
$f(a/b)=f(a)/f(b)\cdots ④$
を満たすような全単射$f$が存在するときに
「似ている」と定義することにしましょう。
ちなみに、体は四則演算について閉じた集合なので、
足し算、引き算、掛け算、割り算の①②③④と4つ条件を付けましたが、
実は②は①から導くことができ、④は③から導くことができるので、省略できます。
では、体の同型写像を定義していきましょう!
(体の同型写像の定義)
$F_1$と$F_2$を体とする。
写像$f: F_1$ $→$ $F_2$
が全単射で、かつ
$a, b \in F_1$に対して
$f(a+b)=f(a)+f(b)$
$f(ab)=f(a)f(b)$
を満たすとき、$f$を体の同型写像という。
$F_1, F_2$に対して体の同型写像が存在するとき、
$F_1$と$F_2$は同型であるといい、
$F_1 \cong F_2$と表す
ついでに自己同型写像も定義しちゃいましょう。
(体の自己同型写像の定義)
体$F$から体$F$自身への同型写像を、
自己同型写像という
では、ここから$f(a-b)=f(a)-f(b)$
と$f(a/b)=f(a)/f(b)$
を示していきましょう。
体の同型写像と減法
(体の同型写像が減法を保存することの証明)
$F_1$と$F_2$を体とし、
$f:F_1$ $→$ $F_2$
を体の同型写像とする。
このとき、$a, b \in F_1$について、
$f(a-b)=f(a)-f(b)$
を示す。
いま、$F_1$の加法単位元を$O_1$とし、
$F_2$の加法単位元を$O_2$とする。
まず、$f(O_1)=O_2$を示す。
$f(x+y)=f(x)+f(y)$に
$x=y=O_1$を代入する。
$f(O_1 +O_1)=f(O_1)+f(O_1)$
よって、
$f(O_1)=f(O_1)+fO_1)$
ここで、$f(O_1) \in F_2$について、
$F_2$が体であることからこれには逆元$-f(O_1) \in F_2$が存在する。
$f(O_1)=f(O_1)+fO_1)$
の両辺に$-f(O_1)$を加える
$f(O_1)+\lbrace -f(O_1) \rbrace=f(O_1)+f(O_1)+\lbrace -f(O_1) \rbrace$
$f(O_1)-f(O_1)=f(O_1)+f(O_1)-f(O_1)$
$O_2=f(O_1)+O_2$
$O_2=f(O_1)$
よって、$f(O_1)=O_2$
ここで、$x \in F_1$について、$-x \in F_1$である。
$x+(-x)=O_1$
より、
$f \lbrace x+(-x) \rbrace=f(O_1)$
$f(x)+f(-x)=O_2$
よって、$f(-x)$は$f(x)$の加法逆元であることが分かるので、
$f(-x)=-f(x)$
ここで、
$f (x-y)=f \lbrace x+(-y) \rbrace$
$=f(x)+f(-y)$
$=f(x)-f(y)$
よって、$f(x-y)=f(x)-f(y)$
となることが分かる
(証明終了)
体の同型写像と除法
(体の同型写像が除法を保存することの証明)
$F_1$と$F_2$を体とし、
$f:F_1$ $→$ $F_2$
を体の同型写像とする。
このとき、$a, b \in F_1$に対して
$f(a/b)=f(a)/f(b)$を示す
いま、$F_1$の乗法単位元を$I_1$とし、
$F_2$の乗法単位元を$I_2$とする。
まず、$f(I_1)=I_2$を示す。
$f(xy)=f(x)f(y)$
に$x=y=I_1$を代入する。
$f(I_1×I_1)=f(I_1)f(I_1)$
$f(I_1)=f(I_1)f(I_1)$
ここで、$f(I_1) \in F_2$について、
$f(I_1)^{-1} \in F_2$である。
$f(I_1)=f(I_1)f(I_1)$
の両辺に$f(I_1)^{-1} $をかけると、
$f(I_1)×f(I_1)^{-1}=f(I_1)f(I_1)f(I_1)^{-1}$
$I_2=f(I_1)×I_2$
$I_2=f(I_1)$
よって、$f(I_1)=I_2$
ここで、
$x \in F_1$について、$x^{-1} \in F_1$である。
$x ×x^{-1} =I_1$より、
$f(x×x^{-1})=f(I_1)$
である。
$f(x)f(x^{-1})=I_2$となり、
$f(x^{-1})$が$f(x)$の乗法逆元であることが分かるので、
$f(x^{-1})=f(x)^{-1}$である。
$f(x/y)=f(x×y^{-1})$
$=f(x)×f(y^{-1})$
$=f(x)×f(y)^{-1}$
$=f(x)/f(y)$
よって、$f(x/y)=f(x)/f(y)$
(証明終了)
まとめ
いかがでしたか?
・体の同型写像は、体が似ているかどうかをうまく表現する道具
・体の同型写像は四則演算を保存する
以上2点を抑えていただければと思います。
実は、体の同型写像(特に自己同型写像)はガロア理論でとても大きな役割を果たします。
次回の記事では、そのあたりを解説していこうと思っていますので、
ご期待ください。
ではまた次回の記事でお会いしましょう!
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