有理化の一般化②

有理化を一般化。決め手はユークリッドの互除法
目次

有理化を一般化しよう!

中学・高校で習う有理化。

例えば、$\dfrac{1}{3+\sqrt{2}}$を有理化するときは、

$(a+b)(a-b)=a^2-b^2$という公式を使って次のように計算します。

$\dfrac{1×(3-\sqrt{2})}{(3+\sqrt{2})×(3-\sqrt{2})}=\dfrac{3-\sqrt{2}}{(3)^2-(\sqrt{2})^2}=\dfrac{3-\sqrt{2}}{9-2}=\dfrac{3-\sqrt{2}}{7}$

大学数学流の言葉で説明すると、

集合が除法について閉じているかどうか確認する作業のことを有理化と呼ぶのでした。

四則演算で閉じている集合を体(たい)と言います。

+、×、ーについて閉じていることを確認するのは比較的楽ですが、

除法について閉じていることを確認するのは結構大変です。

そんな時に活躍するのが有理化なのでした。

詳しくはこちらの記事を参照

中学・高校で習う有理化は、$\mathbb{Q}(\sqrt{2})$の世界まで。

要するに、有理数にルートの数を添加した世界までしか有理化は習いません。

しかし、有理数に添加できる数はなにもルートだけではありません。

三乗根や五乗根だって有理数に添加できます。

学校で習わないだけで。

実際、$\mathbb{Q}(\sqrt[3]{2})$の世界では$a^2-b^2=(a+b)(a-b)$の代わりに

$(a+b+c)(a^2+b^2+c^2-ab-bc-ca)=a^3+b^3+c^3-3abc$

を使うと上手くいきました。

詳しくはこちらの記事を参照

今回はこれを一般化していきます。

具体例を文字で置き替える

一般化する、と言葉でいうのは簡単ですが、実際は結構難しい作業です(ゆえに楽しい)。

「何をもって一般化とみなすか」「我々は何を証明すればよいのか」

ということをつかむのがそもそも難しいのです。

ではどうするのか?

具体例を文字に置き換えるという手法がとても有効です。

今回はこの手法をエンジョイしていきましょう!!楽しいですよ☆

これは入試問題で初見の問題に遭遇した時や、分けわからん問題に出会ったときにも有効な手法です。

まずは$\mathbb{Q}(\sqrt[3]{2})$の世界の有理化である、

$\dfrac{1}{3+\sqrt[3]{2}+\sqrt[3]{4}}=\dfrac{7-\sqrt[3]{2}-2\sqrt[3]{4}}{15}$

という式に着目します。どこを一般化したいかというと、$\sqrt[3]{2}$の部分です。

有理数に$\sqrt{2}$や$\sqrt[3]{2}$を添加した場合の有理化だけでなく、

$\sqrt[5]{2}$や$\sqrt[7]{4}+\sqrt[8]{9}$など、いろんな数を添加した場合の有理化を扱いたいわけです。

ゆえに、$\sqrt[3]{2}$を封印して文字で置きます。

$\sqrt[3]{2}=\alpha$としましょう。

$\dfrac{1}{3+\alpha+\alpha^2}=\dfrac{7-\alpha-2\alpha^2}{15}$

係数の$3, 1, 1, \dfrac{7}{15}, -\dfrac{1}{15}, -\dfrac{2}{15}$も全て文字で置きましょう。

すると、

$\dfrac{1}{a+b \alpha+c \alpha^2}=d+e \alpha+f \alpha^2$

となります。ただし、$a, b, \cdots, f$は有理数です。

なるほど。

左辺の分母は$\alpha$についての3項の多項式で、有理化が完了した右辺も3項の多項式です。

では3項の3はどこから来たかというと、$\sqrt[3]{2}$の3です。つまり三乗根の3です。

もう少し深めましょう。

$\sqrt[3]{2}$とはどんな数でしょうか?

定義を確認するという作業は、取り組む問題が難しければ難しいほど重要です。

$\sqrt[3]{2}$は、$x^3-2=0$の解です。

$x^3-2=0$の部分を一般化すればよいことになります。

$x^3-2=0$は3次方程式です。

3次方程式を一般化するので、n次方程式を考えるのが自然です。

ここで少しだけ注意が必要になります。

$\sqrt[3]{2}$は$x^3-2=0$の解です。

これは揺るぎない真実です。

しかし、例えば

$x^4-x^3-2x+2=0$も

$(x^3-2)(x-1)=0$と因数分解できて、

$x=\sqrt[3]{2}$を解にもちます。

なので、$x^3-2=0$は、$x=\sqrt[3]{2}$を解に持つ方程式のうち、

次数が最小のものという条件が隠れています。

このような多項式を最小多項式といいます。

$x^3-2$は$\sqrt[3]{2}$の最小多項式です。

そして、因数分解の様子は係数の範囲によって変わるので、

最小多項式を考える際にも係数の範囲が大変重要になります。

さて、核心に近づいてきました。

改めて$\dfrac{1}{a+b \alpha+c \alpha^2}=d+e \alpha+f \alpha^2$を眺めてみましょう。

$\sqrt[3]{2}=\alpha$を添加すると、3項の多項式$a+b\alpha+c\alpha^2$が登場します。

これを一般化すると、n項の多項式$a+b\alpha+\cdots +c\alpha^{n-1}$が登場しそうです。

以上をまとめると、有理化を一般化する際に示したい主張は次になります。

n次多項式$f(x)$が$\alpha$の$\mathbb{Q}$上の多項式とする。

このとき、$\dfrac{1}{a_1+a_2 \alpha +a_3 \alpha^2+\cdots +a_n\alpha^{n-1}}=b_1+b_2 \alpha +\cdots +b_n\alpha^{n-1}$となることを示せばよい。

($\mathbb{Q}$上の多項式というのは、係数の範囲が有理数の多項式、という意味です)

証明、の前に脳内会議

いきなり証明を見せられてもなかなか頭には入ってこないものです。

なぜその公式を使うに至ったのか、どこからその発想がでてくるのか

知識と知識を線でつなげる過程こそ最も重要で楽しい部分です。

しかし数学者がかく論文や、入試問題の解説などではこの過程が省略されてしまって、

簡潔でエレガントな解法のみがいきなり読者の目に触れる仕様になっています。

それじゃ面白くないでしょ!!

数学の研究者を目指す場合は、数学書の行間を自分で補うことは大変有意義ですが、

我々のような社会人や学部の大学生、高校生にはハードルが高すぎますし、

楽しいところが見える前に挫折しかねません。それはもったいない。

そこで、僕のサイトでは脳内会議と題して、発想の部分も解説したいと思います。

まずは示したいことをおさらいします。

n次多項式$f(x)$が$\alpha$の$\mathbb{Q}$上の多項式とする。

このとき、$\dfrac{1}{a_1+a_2 \alpha +a_3 \alpha^2+\cdots +a_n\alpha^{n-1}}=b_1+b_2 \alpha +\cdots +b_n\alpha^{n-1}$となることを示せばよい。

なんか式が長くてみにくいので、

$a_1+a_2 x +a_3 x^2+\cdots +a_nx^{n-1}=g(x), $

$b_1+b_2 x+b_3x^2+\cdots +b_n x^{n-1}=h(x)$と置きます。

すると、示したい主張は結局次のようになります。

n次多項式$f(x)$が$\alpha$の$\mathbb{Q}$上の多項式とする。

このとき、n-1次多項式$g(x)$に対して$\dfrac{1}{g(\alpha)}=h(\alpha)$となるn-1次多項式$h(x)$が存在すればよい。

要するに、$\alpha$と$g(x)$が与えられたときにうまく$h(x)$を見つけられますか?

ということが聞かれているわけです。

ここで大切なのは定義の確認。

$\alpha$って何?

$\alpha$は$f(x)=0$の解です。

すなわち、$f(x)$と$g(x)$を使ってうまく$h(x)$を作れないか?

ということが重要なわけです。

そこでもう一度定義の確認を発動しましょう。

$h(x)$って何?

$\dfrac{1}{g(\alpha)}=h(\alpha)$となる多項式のことです。

つまりは、$g(\alpha)h(\alpha)=1$となる多項式です。

まとめると、$f(x)$と$g(x)$を使って$g(\alpha)h(\alpha)=1$となる$h(x)$を見つければよいことになります。

$g(\alpha)h(\alpha)=1$に着目してください。

イコール1です。

$f(x)$と$g(x)$という2つの多項式を使って、イコール1の式を作る。

そう、ユークリッドの互除法です!!

1次不定方程式です!!

$a(x), b(x)が与えられたとき、a(x)X(x)+b(x)Y(x)=1$となる$X(x), Y(x)$が存在するという定理がありました。

これを使おう!という発想に至ります。

ここで大切なのは、発動条件です。

定理というものは、漫画・アニメにおける必殺技だと思ってください。

いつでもポンポン必殺技を打てたら、それは必殺技じゃありません。

気合をためたり、ポーズを決めたり、オサレな呪文を唱えたりしなければ必殺技は発動できません。

定理も同じで、証明で定理を使うときは必ずその定理の発動条件を確認しなければいけません。

今回の場合は、$a(x), b(x)$が互いに素というのが発動条件になります。

詳しくはこちらを参照

今回の証明では、発動条件を満たしているかどうかチェックする作業が全体の大半をしめます。

背理法を連発しますが、それらはすべて発動条件を満たしているか調べているんだな、と思うと風通しがよくなると思いますので、頑張って証明を追っていってください。

我々の勝利は目前です。

証明

証明

n次多項式$f(x)$が$\alpha$の$\mathbb{Q}$上の最小多項式とする。

このとき、$\mathbb{Q}$上のn-1次多項式$g(x)$に対して

$\dfrac{1}{g(\alpha)}=h(\alpha)$となるn-1次多項式$h(x)$が存在すればよい。

なお、$g(\alpha)\neq 0$である。

ここで、多項式の1次不定方程式

$f(x)X(x)+g(x)Y(x)=1$

が解を持つかどうかを考える。

いま、$f(x)$は$\alpha$の最小多項式である。

仮に$f(x)$が$\mathbb{Q}$上で可約であるとすると、$f(x)=m(x)n(x)$と因数分解でき、

$\alpha$を解として持つ多項式で$f(x)$より次数が低いものが存在してしまうので、

$f(x)$は$\mathbb{Q}$上既約である。

ここで、$g(x)$が$f(x)$で割り切れると仮定する。

すると、$g(x)=f(x)p(x)$と因数分解できる。

ここで、$\alpha$は$f(x)=0$の解であるので、

$f(\alpha)=0$である。

よって、$g(\alpha)=f(\alpha)p(\alpha)$となり、

$g(\alpha)=0$となるが、これは$g(\alpha)\neq 0$に矛盾。

よって、$g(x)$は$f(x)$で割り切ることはできない。

このときに、$f(x)$と$g(x)$が互いに素とならないと仮定する。

すると、1次以上の多項式$q(x)$が存在し、

$f(x)=t(x)q(x), g(x)=s(x)q(x)$となる。

$t(x)$の最高次の係数は1とする。

$f(x)$は既約多項式なので、これより次数が低い多項式に分解することはできない。

したがって、$t(x)$は定数でなければならず、最高次の係数が1なので、$t(x)=1$である。

よって$f(x)=q(x)$であり、$g(x)=s(x)f(x)$となる。

これは、$g(x)$が$f(x)$で割り切ることができないことに矛盾する。

よって、$f(x)$と$g(x)$は互いに素である。

したがって、1次不定方程式

$f(x)X(x)+g(x)Y(x)=1$

は解を持つ。それを$X(x)=z(x), Y(x)=h(x)$とする。

$f(x)z(x)+g(x)h(x)=1$

これに$x=\alpha$を代入。

$f(\alpha)z(\alpha)+g(\alpha)h(\alpha)=1$

ここで、$f(\alpha)=0$なので、

$g(\alpha)h(\alpha)=1$

$g(\alpha)\neq 0$なので、

$\dfrac{1}{g(\alpha)}=h(x)$

証明終了

おまけ

有理化の一般化、成功です!!

また、おまけですが、

これで$\mathbb{Q}(\alpha)$が体であることも示せるので、さくっと示しちゃおうと思います。

ここからはおまけなので、読み飛ばしても全然OKです。

$\mathbb{Q} (\alpha)= \lbrace a_1+a_2 \alpha +\cdots +a_n \alpha^{n-1} \mid a1, \cdots, a_{n-1} \in \mathbb{Q} \rbrace$です。

加法・減法についてとしているのは、ほぼ自明なので省略します。

除法はさっきやりました。

あとは乗法です。

$\alpha$についてのn-1次以下の多項式を$g(x), h(x) とします。

$g(\alpha), h(\alpha) \in \mathbb{Q}(\alpha)$について、

$g(\alpha) h(\alpha) \in \mathbb{Q}(\alpha)$を示せばよいです。

積が$\alpha$についての多項式になることは自明なので、あとは次数だけが問題になります。

積の次数がn-1次以下であることを$f(\alpha)=0$を使って示すわけです。

次数を下げたい→割り算!

積$g(x)h(x)$を$f(x)$で割り、商を$q(x)$, あまりを$r(x)$とします。

$g(x) h(x)=f(x)q(x)+r(x)$

これに$x=\alpha$を代入しましょう。

$f(\alpha)=0$に注意すると、

$g(\alpha) h(\alpha)=r(\alpha)$

ここで、$r(x)$はあまりの多項式なので、$f(x)$よりも次数はひくくなります。

よって、$r(x)$はn-1次以下の多項式となり、$r(\alpha) \in \mathbb{Q}$です!

したがって、$ \mathbb{Q}(\alpha)$は体となります!

まとめ

・有理化は一般化できる

・一般化の際には文字が有効

・証明にはユークリッドの互除法、1次不定方程式を使った

・定理を使うには発動条件の確認が大切

・$ \mathbb{Q}(\alpha)$は体

お疲れさまでした!

ここまで読み進めてくださってありがとうございます!

とっても嬉しいです!

また次の記事でお会いしましょう!!!

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