既約多項式の性質一覧

既約多項式の性質完全制覇

代数を学んでいると何かと扱うことが多い既約多項式。

今回は、そんな既約多項式の性質をまとめてみました!

既約多項式の性質を理解するうえで最も大切なことは、素数っぽさです。

「既約多項式は素数と似たような性質を持っている」

これを意識するだけでめちゃくちゃ見通しがよくなります。

目次

既約多項式とは?

ある多項式が与えられたとき、それがまだ因数分解できれば可約といい、

もう因数分解できなければ既約といいます。

ここで大切なのが、係数の範囲です。

例えば、$x^4-4$という多項式を考えてみましょう。

これは、整数係数の範囲で可約で、

$x^4-4=(x^2-2)(x^2+2)$と因数分解できます。

でもこれ以上は因数分解できません。

しかし、実数の範囲ではまだ因数分解できます。

$x^4-4=(x-\sqrt{2})(x+\sqrt{2})(x^2+2)$

です。

係数の範囲をもっと広げて、複素数で考えると、更に因数分解できます。

$x^4-4=(x-\sqrt{2})(x+\sqrt{2})(x-\sqrt{2}i)(x+\sqrt{2}i)$

このように、因数分解できるかどうかは、係数の範囲がとても大切です。

今回は、有理数係数の範囲で既約な多項式を扱います。

なぜ有理数$\mathbb{Q}$を扱うかですが、それは、

$\mathbb{Q}$が体になるからです。

四則演算で閉じた集合を体(たい)といいます。

代数は数についての学問ですので、四則演算で閉じているかどうかは結構大切なのです。

有理数の範囲で既約な多項式を、

$\mathbb{Q}$上の既約多項式といいます。

既約多項式の性質たち

既約多項式にはいろいろ便利な性質があります。

冒頭でも述べましたが、

これらの性質を理解するにあたって大切な視点が1つだけあります。

それは、

既約多項式は素数っぽい振る舞いをする

という視点です。

では、既約多項式の性質を一つ一つ見ていきましょう!

既約多項式の性質1つめ

既約多項式のの性質一覧のトップバッターを務めるのは、以下の性質です。

(既約多項式の性質①)

$f(x)$を$\mathbb{Q}$上の既約多項式とする。

また、$g(x)$は有理数係数多項式とする。

このとき、$f(x)$が$g(x)$を割り切らないならば、$f(x)$と$g(x)$は互いに素である。

この性質、既約多項式の素数っぽさをよく表していると思うので(マスタノ調べ)、

ちょっと補足説明させてください。

例えば、2は素数ですよね。で、9は2で割り切れません。

この時、2と9は互いに素となっています。

これとを多項式バージョンに落とし込んだのが、既約多項式の性質①です。

(既約多項式の性質①の証明)

$f(x)$は$\mathbb{Q}$上既約であるので、

$g(x)$は$f(x)$と互いに素であるか、または$f(x)$の定数倍かのいずれかである。

しかし、条件より$f(x)$は$g(x)$を割り切らないので、

$g(x)$は$f(x)$の定数倍にはなりえない。

ゆえに、$f(x)$と$g(x)$は互いに素である。

(証明終了)

さくさくいきましょう。

既約多項式の性質2つ目

(既約多項式の性質②)

$f(x)$を$\mathbb{Q}$上の既約多項式とする。

また、$g(x)$と$h(x)$は有理数係数多項式とする。

ここで、$f(x)$は積$g(x)h(x)$を割り切るとする。

このとき、$f(x)$は$g(x)$を割り切るか、または$h(x)$を割り切る。

この性質も、既約多項式が素数っぽく振る舞うことを端的に表しています。

例えば、3は素数です。

ある数$ab$が3の倍数であるという条件があったとします。

必然的に、$a$または$b$は3の倍数になりますよね。

これを多項式の世界で表したのが、既約多項式の性質②と思って下さい。

(既約多項式の性質②の証明)

$f(x)$が$g(x)$を割り切る場合は、それで既約多項式の性質②は成り立つことになる。

ゆえに、$f(x)$が$g(x)$を割り切らない場合を考える。

このとき、$f(x)$が$h(x)$を割り切れることを示すことができればよい。

すると、既約多項式の性質①より、$f(x)$と$g(x)$は互いに素である。

すると、多項式版ユークリッドの互除法より、

$f(x)X(x)+g(x)Y(x)=1$

となる$X(x)$と$Y(x)$が存在する。

ただし、$X(x)$と$Y(x)$は有理数係数多項式である。

これの全体を$h(x)$倍する。

$f(x)X(x)h(x)+g(x)Y(x)h(x)=h(x)$

である。

ここで、条件より$f(x)$は積$g(x)h(x)$を割り切るので、

$f(x)X(x)h(x)+g(x)Y(x)h(x)=h(x)$

の左辺は$f(x)$で割り切れる。

ゆえに、右辺も$f(x)$で割り切れなければならず、

結果として$h(x)$が$f(x)$で割り切れることになる。

(証明終了)

既約多項式の性質3つ目

ここから重要度が上がっていきます。

必見です。

(既約多項式の性質③)

$f(x)$を$\mathbb{Q}$上の既約多項式とする。

また、$g(x)$は有理数係数多項式とする。

このとき、$f(x)=0$と$g(x)=0$が共通の解を一つでももてば、

$g(x)$は$f(x)$で割り切れる。

この性質、実はめっちゃ便利な性質で、今後の記事で活用場面があります。

ご期待ください。

証明に際しては、「割り切れる」という条件よりも「割り切れない」という条件の方が処理しやすいので、

(ユークリッドの互除法が使えるから)背理法を使います。

(既約多項式の性質③の証明)

背理法で証明する。

いま、$f(x)$は$g(x)$を割り切らないと仮定する。

すると、既約多項式の性質①より、$f(x)$と$g(x)$は互いに素となる。

したがって、多項式版ユークリッドの互除法より、

$f(x)X(x)+g(x)Y(x)=1$

となる有理進係数の多項式$X(x)$と$Y(x)$が存在する。

ここで、$f(x)=0$と$g(x)=0$は共通の解をもつので、

その解を$x=\alpha$とする。

$f(x)X(x)+g(x)Y(x)=1$

に$x=\alpha$を代入すると、

$f(\alpha)=0$と$g(\alpha)=0$

より、$0=1$となるが、これは矛盾。

よって、背理法より、

$g(x)$は$f(x)$で割り切れる。

(証明終了)

既約多項式の性質4つ目

まだまだいきます。

(既約多項式の性質④)

$f(x)$を$\mathbb{Q}$上の既約多項式とする。

また、$g(x)$は有理数係数多項式とする。

このとき、$g(x)$の次数が1次以上で、かつ$f(x)$の次数よりは小さければ、

$f(x)=0$と$g(x)=0$

は共通の解を持たない。

否定形の証明なので、第一選択肢は背理法です。

(既約多項式の性質④の証明)

背理法によって示す。

いま、$f(x)=0$と$g(x)=0$が共通の解をもつと仮定する。

$f(x)$は既約多項式であるので、既約多項式の性質③より、

$g(x)$は$f(x)$で割り切れなければならない。

しかし、これは$g(x)$の次数が$g(x)$の次数が1次以上で、かつ$f(x)$の次数よりは小さいことに矛盾する。

ゆえに、背理法から、

$f(x)=0$と$g(x)=0$

は共通の解を持たない。

(証明終了)

さぁ、次がクライマックス。

既約多項式のもつ性質のうち、最も重要(マスタノ調べ)な性質です。

既約多項式の性質5つ目

(既約多項式の性質⑤)

$f(x)$を$\mathbb{Q}$上の既約多項式とする。

$f(x)=0$は重解をもたない。

これは僕のお気に入りの性質です。

なんでお気に入りかというと、ガロア理論ですごく活躍するからです♪

初めはこれなんの役に立つの?と思っていましたが、

ガロア理論で自己同型写像が置換を引き起こすことを証明するときに

この性質がすごくいい仕事をして感動しました。

これを示すにあたっては微分を使います。

「微分」は接線と切っても切れないくらい深いかかわりがあり、

マジめっちゃウルトラ面白い概念です。

しかし、今回は余白が足りないので(フェルマー並感)

微分についての掘り下げは別の記事で行うことにします。

ご期待ください。

今回は、極限とか接線とか、微分の面白い側面はそぎ落として、

単に結果だけ使います。

(微分の公式まとめ)

$(x^n)’=nx^{n-1}$ ←数学Ⅱの微分

$(f(x)+g(x))’=f'(x)+g'(x)$ ←和の微分

$(cf(x))’=cf'(x)$ ←定数倍の微分

$(f(x)g(x))’=f'(x)g(x)+f(x)g'(x)$ ←積の微分

$\lbrace f(g(x)) \rbrace’ =f'(g(x))g'(x)$ ←合成関数の微分

特に、

$\lbrace (x-a)^n \rbrace’=n(x-a)^{n-1}$ ←合成関数の微分の簡単バージョン

また、既約多項式の性質⑤は否定形なので、

証明の第一選択肢は背理法です。

(既約多項式の性質⑤の証明)

既約多項式$f(x)$について、

$f(x)=0$が重解をもつと仮定する。

その解を$x=a$

とおく。

すると、

$f(x)=(x-a)^2p(x)$

と表すことができる。

これの両辺を$x$で微分する

$f'(x)=2(x-a)p(x)+(x-a)^2p'(x)$

ここで、$f'(x)$は1次以上の多項式で、かつ$f(x)$より次数は小さい。

ゆえに、既約多項式の性質④より、

$f(x)=0$と$f'(x)=0$

は共通の解を持たない。しかし、

$f'(x)=2(x-a)p(x)+(x-a)^2p'(x)$に

$x=a$を代入すると、

$f'(a)=0$

が成立してします。

ゆえに、

$f(x)=0$と$f'(x)=0$

は共通の解$x=a$

をもつことになるが、これは矛盾。

ゆえに、$f(x=0)$は重解を持たない

(証明終了)

$f(x)$が既約多項式だよ、という条件を取り除いてゆるくすると、

今回の証明内容からいかが導けます

(微分を使った重解の判定)

$f(x)=0$が$x=a$を重解を持つ 

$⇔$ 

$f(a)=f'(a)=0$

これは$f(x)$が既約多項式でなくとも成り立ちます。

受験数学でも結構役に立つ知識なので、知っておいて損はないでしょう。

まとめ

いかがでしたか?

既約多項式にはいろいろ便利な性質があるんだな、と思っていただければ幸いです。

今回証明した性質は今後活躍する場がありますので、

ご期待ください。

ではまた次回の記事でお会いしましょう!

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