線形結合と線形独立と線形従属を具体例で分かりやすく

線形独立と線形従属

線形空間の元には、線形結合(一次結合)線形独立(一次独立)なものと線形従属(一次従属)なものがあります。

特に、線形独立なものたちが果たす役割はとても大きいです。

そこで今回は、線形結合と線形独立と線形従属を確実に理解できるよう、

具体例に力を入れて解説していこうと思います。

目次

観察

今回は、線形独立と線形従属の定義の説明よりも前に、

具体例の観察から入るというアクロバティックな構成でいこうと思います。

基礎知識として、「スカラー倍」と「線形空間」という言葉を使います。

といっても今回の記事を読みにあたっては、そこまで厳密な定義を

暗記していなくても十分です。

ざっくり、

「スカラー倍」は定数倍のこと、

「線形空間」は和とスカラー倍の2つの演算を持つ集合のこと

くらいの認識で差し支えありません(数学的厳密性は度外視)

より詳細な内容は、ぜひ以下の記事をご覧ください

では先へ進んでいきましょう!

xy座標平面について

まず、$xy$平面を考えてください。これは$\mathbb{R}^2$で表すのでした。

具体的には、

$\mathbb{R}^2=\lbrace (x, y) \mid x, y \in \mathbb{R} \rbrace$

と表すのでした。

いまから、ある基準で$\mathbb{R}^2$の元を

線形独立なグループと

線形従属なグループにわけていきます。

どんな基準で分けてるんだろう?

という視点で軽く流し見していただければと思います。

(線形独立なグループ)

例① $(1, 0)$と$(0, 1)$は線形独立

例② $(2, 3)$と$(4, 5)$は線形独立

例③ $(-1, 2)$と$(1, 1)$は線形独立

(線形従属なグループ)

例④ $(1, 0)$と$(3, 0)$は線形従属

例⑤ $(1, 2)$と$(3, 6)$は線形従属

例⑥ $(-1, 2)$と$(4, -8)$は線形従属

どうですか?

線形独立の規則性は中々つかめないと思いますが、

線形従属の方はなんとなく規則性がつかめたのではないでしょうか。

線形従属な奴らは、原点を通る同一直線上にいます!

例えば、例②を見てみましょう。

$(1, 2)$と$(3, 6)$です。

両方とも$y=2x$上の点ですね!

もう少し深く突っ込むと、これには、

$(3, 6)=3(1, 2)$

という関係性があり、両方とも$(1, 2)$のスカラー倍で表すことができます。

線形独立な奴らは、片方をもう片方のスカラー倍で表すことはできません。

では、次は一つ次元を上げて、$xyz$座標空間を考えていきましょう。

xyz座標空間

$xyz$座標空間は$\mathbb{R}^3$で表されます。

具体的には、

$\mathbb{R}^3=\lbrace (x, y, z) \mid x, y, z \in \mathbb{R} \rbrace$

です。

これもまた、同じようにグループ分けしていきます。

(線形独立なグループ)

例⑦ $(1, 2, 3)$と$(4, 5, 6)$と$(7, 8, 9)$は線形独立

例⑧ $(1, 0, 0)$と$(0 , 1, 0)$と$(0, 0, 1)$は線形独立

(線形従属なグループ)

例⑨ $(1, 2, 3)$と$(5, 10, 15)$と$(6, 12, 18)$は線形従属

例⑩ $(1, 2, 3)$と$(4, 5, 6)$と$(5, 7, 9)$は線形従属

例⑪ $(-1, 2, 4)$と$(3, 8, 5)$と$(2, 10, 9)$は線形従属

例⑫ $(1, 0, 0)$と$(0, 1, 0)$と$(4, 3, 0)$は線形従属

どうでしょうか?

今回も線形独立より線形従属がつかみやすいので、軽く解説です。

まず、例⑨をみましょう。これは$\mathbb{R}^2$のときと同じで、

同一直線上です。また、

$(5, 10, 15)=5(1, 2, 3)$

$(6, 12, 18)=6(1, 2, 3)$

と、どれもが$(1, 2, 3)$のスカラー倍で表されます。

問題は⑩⑪⑫だと思います。

これは、こんなからくりがあります。

例⑩ $(1, 2, 3)$と$(4, 5, 6)$と$(5, 7, 9)$について、

   $(5, 7, 9)=(1, 2, 3)+(4, 5, 6)$

例⑪ $(-1, 2, 4)$と$(3, 8, 5)$と$(2, 10, 9)$について、

   $(2, 10, 9)=(-1, 2, 4)+(3, 8, 5)$

例⑫ $(1, 0, 0)$と$(0, 1, 0)$と$(4, 3, 0)$について、

   $(4, 3, 0)=4(1, 0, 0)+3(0. 1. 0)$

どうでしょうか?

最後のやつが、残り2つの「スカラー倍の和」で表されていますね!

これを図形的に解釈すると、

「線形従属な奴らは同一直線状、または同一平面上にいる」

ということになります。

逆に、「線形独立なやつらは、同一直線上や同一平面上にはいない」のです!

座標平面、座標空間については、直線や平面といった具体的なイメージを持つことができますが、

一般の線形空間ではこのようなイメージを持つことができません。

なんとなくのイメージを一般化して、数学の言葉で記述する必要があります。

で、ざっくり

「同一平面上にいない」を一般化したのが「線形独立」

「同一平面上にいる」を一般化したのが「線形従属」

だと思ってください。

一般化に当たっては、「スカラー倍の和」がどうなっているか、

に着目していくことになります。

線形結合(一次結合)の定義

線形独立と線形従属が今回の記事のメインの内容ですが、

これらについて解説するにあたっては、

まず線形結合という用語を理解しておく必要があります。

なので、初めは線形結合の定義から紹介していこうと思います。

では、線形結合の定義です

(線形結合の定義)

$F$を体とし、$V$を$F$上の線形空間とする。

このとき、

$a_1, a_2, \cdots, a_n \in F$と

$x_1, x_2, \cdots, x_n \in V$に対して

$a_1x_1+a_2x_2+\cdots + a_nx_n$

を線形結合という

(より正確には$x_1, x_2, \cdots, x_n $の$a_1, a_2, \cdots, a_n$による線形結合という)

小難しくかきましたが、要するに、

「スカラー倍の和のことを線形結合と呼んでいる」

と押さえていただければと思います。

ではここで具体例を見ていきましょう。

線形結合の具体例

例えば、$xy$平面$\mathbb{R}^2$を考えます。

$\mathbb{R}^2=\lbrace (x, y) \mid x, y \in \mathbb{R} \rbrace$

です。$\mathbb{R}^2$は$\mathbb{R}$上の線形空間です。

例としては、

$2(2, 3)+4(-1, 9)$

とか、

$3(0, 1)+4(1, 1)+5(9, 7)$

とか、

$(1, 1)+2(2, 2)+3(3, 3)$

とか、これらは全て線形結合です。

次は線形独立についてです。

線形独立の定義

線形独立が今回の記事では一番重要な内容で、今後にもつながっていきますので、

しっかり押さえていきましょう。まずは定義から紹介します。

(線形独立の定義)

$F$を体とし、$V$を$F$上の線形空間とする。

$a_1, a_2, \cdots, a_n \in F$と

$x_1, x_2, \cdots, x_n \in V$をとる。

また、$V$の加法単位元を$o$とする

$a_1x_1+a_2x_2+\cdots + a_nx_n=o$

が成り立つのが

$a_1=a_2= \cdots =a_n=0$

の場合のみであるとき、

$x_1, x_2, \cdots, x_n $

は線形独立であるという。

$a_1x_1+a_2x_2+\cdots + a_nx_n=o$

が成り立つのは

$a_1=a_2= \cdots =a_n=0$

のときだけ という点が大切です。

では早速具体例を見ていきましょう。

具体例①

まずは$xy$平面ですね。

$(1, 0) \in \mathbb{R}^2$と$(0, 1) \in \mathbb{R}^2$

を取ります。これが線形独立であることを示しましょう。

まず、$\mathbb{R}^2$は$\mathbb{R}$上の線形空間なので、

$a_1, a_2 \in \mathbb{R}$を取ります。

$\mathbb{R}^2$の加法単位元は$(0, 0)$です。

線形独立の定義から、

$a_1(1, 0)+a_2(0, 1)=(0, 0)$

が成り立つのが$a_1=a_2=0$のときのみであることを示せばよいです。

いま、

$a_1(1, 0)+a_2(0, 1)=(a_1, 0)+(0. a_2)$

$=(a_1, a_2)$です。

$a_1(1, 0)+a_2(0, 1)=(0, 0)$

より、

$(a_1, a_2)=(0, 0)$

となり、$a_1=a_2=0$です。

したがって、

$(1, 0)$と$(0, 1)$は線形独立です。

具体例②

$xy$座標平面や$xyz$座標空間の例は冒頭で確認してあるので、

ちょっと趣向を変えたものにもチャレンジしてみようと思います。

今回扱うのは、$\mathbb{R}^2$や$\mathbb{R}^3$ではなく、

$\mathbb{Q}(\sqrt{2})$です!

($\mathbb{Q}$は有理数を表し、$\mathbb{Q}(\sqrt{2})$は有理数に2の平方根を添加した集合です)

$\mathbb{Q}(\sqrt{2})=\lbrace a+b\sqrt{2} \mid a, b \in \mathbb{Q} \rbrace$

と表されるのでした。

ここで、$1$と$\sqrt{2}$が線形独立であることを示そうと思います

その際、$\sqrt{2}$が無理数であることを用いるので、あしからず。

$\mathbb{Q}(\sqrt{2})$は$\mathbb{Q}$上の線形空間なので、

$a_1, a_2 \in \mathbb{Q}$をとり、

$a_1×1+a_2×\sqrt{2}=0$

が成り立つのが$a_1=a_2=0$のときのみであることを示します。

背理法でアタックしましょう。

$a_2 \neq 0$と仮定します。

すると、$a_1×1+a_2×\sqrt{2}=0$より、

$a_2\sqrt{2}=-a_1$なので、

$\sqrt{2}=-\dfrac{a_1}{a_2}$

となります。$a_1, a_2 \in \mathbb{Q}$であり、

有理数$\mathbb{Q}$は四則演算で閉じているので、

$-\dfrac{a_1}{a_2}$は有理数です。

したがって、$\sqrt{2}$は有理数であるということになりますが、これは矛盾です。

よって、背理法より$a_2=0$となります。

$a_1×1+a_2×\sqrt{2}=0$

に$a_2=0$を代入すると、

$a_1×1=0$

となり、$a_1=0$です。

したがって、$a_1×1+a_2×\sqrt{2}=0$が成り立つのは

$a_1=a_2=0$のときのみであることが確認でき、

$1$と$\sqrt{2}$は線形独立と分かります。

では、次は線形従属です!

線形従属(一次従属)の定義

線形独立でないとき、線形従属です。

これで十分なんですが、もう少し丁寧に表現すると以下のようになります。

(線形従属の定義)

$F$を体とし、$V$を$F$上の線形空間とする。

$a_1, a_2, \cdots, a_n \in F$と

$x_1, x_2, \cdots, x_n \in V$をとる。

また、$V$の加法単位元を$o$とする

$a_1x_1+a_2x_2+\cdots + a_nx_n=o$

のとき、

$a_1, a_2, \cdots, a_n $の少なくとも一つが$0$でないならば、

$x_1, x_2, \cdots, x_n $

は線形従属であるという。

要するに、$a_1, a_2, \cdots, a_n$のうち、0じゃないやつがいるのに

$a_1x_1+a_2x_2+\cdots + a_nx_n=o$

が成り立ってしまうなら線形従属だよ!というイメージです。

では具体例にいきましょう!

具体例①

$\mathbb{R}^3$について考えます。

$(1, 2, 3), (3, -2, 1), (-3, 10, 7) \in \mathbb{R}^3$が

線形従属であることを示しましょう。

$\mathbb{R}^3$は$\mathbb{R}$上の線形空間なので、

$a, b, c \in \mathbb{R}$を取ります。

$a(1, 2, 3)+b(3, -2, 1)+c(-3, 10, 7)=(0, 0, 0)$

としたとき、$a, b, c$で$0$にならないやつがいることが示せればよいです。

$a(1, 2, 3)+b(3, -2, 1)+c(-3, 10, 7)=(0, 0, 0)$

について、$x$座標の値を比較すると、

$a+3b-3c=0$…①

$y$座標の値を比較すると、

$2a-2b+10c=0$…②

$z$座標の値を比較すると、

$3a+b+7c=0$…③

となります。

①②③の3元一次連立方程式を解けばよいです。

行列が使えると速いですが、ここは地道にやっていきましょう。

未知数が3つもあるのは嫌です。2つがいいです。

なので、$c$は定数扱いとし、$a$と$b$を未知数と思いましょう。

①より

$a+3b=3c$…④

②を2で割って

$a-b+5c=0$から、

$a-b=-5c$…⑤

④ー⑤より、

$4b=8c$

よって、$b=2c$

これを⑤に代入

$a-2c=-5c$

$a=-3c$

$3a+b+7c=0$…③

に$b=2c$と$a=-3c$を代入。

$-9c+2c+7c=0$

$(-9+2+7)c=0$

$0c=0$

あれ?と思いませんでしたか?

このままでは、$c$の値が決定できません。

どこか計算を間違えたのか?

いいえ。これであっているんです。

ここでは深く触れませんが

「連立方程式は、いつもきれいに解けるとは限らないんです!」

(連立方程式が解けるための必要十分条件は行列の階数で記述されます。)

今回は、$c$の値は決定できません。なぜなら、

$0c=0$

という式は、$c$がどんな値でも成立します。

つまり$c$は、任意の値でよいのです。

なので、例えば$c=1$としましょう1(別に2でもー1でもいいですけどね)

すると、$a=-3, b=2, c=1$となります。

ここで、

$-3(1, 2, 3)+2(3, -2, 1)+(-3, 10, 7)=(0, 0, 0)$

が成り立ちます。

よって、

$a(1, 2, 3)+b(3, -2, 1)+c(-3, 10, 7)=(0, 0, 0)$

について、$a, b, c$に0でないものが存在するので、

定義からこれは線形従属と分かります。

具体例②

$\mathbb{Q}(\sqrt{2})$についても考えてみましょう。

$1, \sqrt{2}, 5\sqrt{2}$が線形従属であることを示します。

$\mathbb{Q}(\sqrt{2})$は$\mathbb{Q}$上の線形空間なので、

$a, b, c \in \mathbb{Q}$を取ります。

$a×1+b×\sqrt{2}+c×(5\sqrt{2})=0$

な成り立つときに、$a, b, c$のどれか一つでも0でないやつがいることを確認すればよいです。

$a+(b+5c)\sqrt{2}=0$

より、例えば、$a=0, b=-5, c=1$のとき

$a×1+b×\sqrt{2}+c×(5\sqrt{2})=0$

は成り立ちますが、$b, c$が0ではありません。

よって、定義からこれは線形従属です。

まとめ

いかがでしたか?

・「同一平面上ににないよ」を一般化したのが「線形独立」

・「同一平面上にいるよ」を一般化したのが「線形従属」

・一般化の決め手はスカラー倍の和

・スカラー倍の和を線形結合という

以上を押さえていただければと思います。

次回は線形独立を上手く使って「次元」というとてもロマンのある概念を定義していきます。

その際「基底」という概念が活躍します。

ご期待ください。

ではまた次回の記事でお会いしましょう!

参考

画像素材提供(アイキャッチ):Gerd AltmannによるPixabayからの画像

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