線形空間の定義のなぜに「まっすぐ」の一般化で答える

線形空間について

今回は線形空間について扱っていきます。

線形空間は、またの名をベクトル空間とも言います。

大学1年生で線形代数を習うときの一つのターニングポイントですね。

でもこの線形空間、なんでこんな定義になってるの?と疑問に思うことも多いと思います。

そこで今回は、「まっすぐ」という概念の一般化という視点から線形空間の定義を再構成していきたいと思います。

線形空間はかなり便利な概念で、ガロア理論や微分方程式論でも大活躍します。

目次

線形空間(ベクトル空間)の定義

まずは定義を確認しておきましょう。

かなり条件が多いので、うぇ~と思うこと間違いなしですが、

それぞれの条件の意味や、なぜそれが必要なのかは後々の見出しで解説しますので、

まずはなんとなく定義を眺めてみましょう。

($F$上の線形空間の定義)

$V$を集合とする。また、$F$を体とする。

$V$の任意の元$x, y$について

和$x+y$が定義され、$x+y \in V$である。

また、$V$の任意の元$x$と$F$の任意の元$a$について

スカラー倍$ax$が定義され、$ax \in V$である。

更に$V$が以下の条件を満たすとき、

$V$を$F$上の線形空間という

(1) すべての$x, y, z \in V$に対して、

   $x+(y+z)=(x+y)+z$

(2) すべてのの$x \in V$に対して

   $x+o=o+x=x$となる元$o \in V$が存在する。

(3) すべての$x \in V$に対して

   $x+k=k+x=o$となる$k \in V$が存在する

(4) すべての$x, y \in V$に対して

   $x+y=y+x$が成立する

(5) すべての$x \in V, a, b \in F$について

   $a(bx)=(ab)x$が成立する

(6) $F$の単位元$1_F \in F$とすべての$x \in V$に対して

   $1_Fx=x$

(7) すべての$x, y \in V, a \in F$について

   $a(x+y)=ax+ay$が成り立つ

(8) すべての$x \in V, a, b \in F$に対して、

   $(a+b)x=ax+bx$が成り立つ

条件(3)で、数字のゼロ「0」ではなく小文字のオー「o」を用いてる点に留意してください。

これは、ゼロっぽい役割を果たすものの、0と同じとは限らないため区別しています。

例えば、$xy$座標平面では原点$(0, 0)$が0と同じ役割を果たします。

また、$V$を$F$上の線形空間と呼ぶ、の「$F$上の」という部分が案外大切です。

さて、線形空間の定義を見て、何じゃこりゃ!?という感想をもったあなた!

僕とお揃いです笑

$x+y \in V$と$ax \in V$は、

「あ、演算が二種類あるんだなぁ」くらいでまだ納得できると思いますが、問題はその続きです。

いきなり8個も条件を並べられても結構困惑すると思います。

特に、線形代数で線形空間を習うと、

今まで計算が中心で親しみやすかった線形代数が、

急に遠くへ行ってしまったような寂しさを覚えることでしょう。

それは、線形空間の条件の意味がよく分からないからだと思います(経験者は語る)。

次の見出しでは、なぜこんな条件を考える必要があるのか、

線形空間の意味を深堀していきたいと思います。

線形空間(ベクトル空間)と群

まず、ちょっとした「代数」の流れの説明から行こうと思います。

代数分野の難問として、方程式の解の公式についての問題がありました。

2次方程式、3次方程式、4次方程式には解の公式が存在するのに、

5次方程式の解の公式が見つからない。

なぜか?ひょっとして、5次方程式に解の公式は存在しないのか?

5次方程式は代数的に解けない。

これを最初に証明したのがアーベルでした。

しかし、5次以上の方程式でも、例えば

$x^5-1=0$は解くことができます。

「5次以上の方程式は代数的に解けない」は、解ける方程式と解けない方程式があるよ!

といったニュアンスの意味なのです。

であれば、解ける方程式と解けない方程式って何が違うの?

ということが次なる疑問として立ちはだかります。

そこで登場するのがガロアであり、彼が作ったガロア理論です。

ガロア理論では「群」という数学概念が大活躍しました。

しかし、当時の数学者にとってガロアの業績は時代を先取りしすぎていて、中々理解されませんでした。

ガロアの死後、デデキントが彼の理論の重要性に気づき、初めて大学でガロア理論の講義を開講します。

更にしばらくして、アルティンがガロア理論をより数学的に洗練された形で記述することに成功しました。

このときアルティンが使った数学の道具が線形空間です。

はい。

前置きが長くなりましたが、

ここまでの流れでつかんでほしいのは

①まず方程式の研究で群が発明された。

②ガロア理論を洗練した形で記述するために線形空間が便利だった

という2点です。

ここで、「群」という概念の定義を述べておこうと思います。

(群の定義)

集合$G$にある演算$〇$が定義されているとする。

$G$が以下の条件を満たすとき、$G$を群(ぐん)という

①すべての$a, b, c \in G$について、$a〇 (b〇 c)=(a〇 b)〇 c$が成り立つ

②すべての$a \in G$に対して、$a〇e=e〇a=a$となる$e \in G$が存在する

 ($e$を単位元という)

③すべての$a \in G$に対して、$a〇x=x〇a=e$となる$x \in G$が存在する

 ($x$を逆元という)

「群」について馴染みのない方は以下の記事をご覧ください。

特に、「こんなもんをどうして考えようと思ったんだ?」と興味を持っていただけた方はぜひ。

群という概念を踏まえたうえで、線形空間の定義を見てみましょう。

特に、(1)(2)(3)に着目してください。

(線形空間の定義の最初の3つの条件)

$V$を集合とする

(1) すべての$x, y, z \in V$に対して、

   $x+(y+z)=(x+y)+z$

(2) すべてのの$x \in V$に対して

   $x+o=o+x=x$となる元$o \in V$が存在する。

(3) すべての$x \in V$に対して

   $x+k=k+x=o$となる$k \in V$が存在する

どうですか?

これ、群の定義において、演算〇を$+$にしたものに他なりません。

条件(1)は+についての結合法則を要求しています。

条件(2)は+についての単位元の存在を要求しています。

条件(3)は+についての逆元の存在を要求しています。

次に条件(4)を見ていきましょう。

(線形代数空間の条件の4つめ)

(4) すべての$x, y \in V$に対して

   $x+y=y+x$が成立する

条件(4)は交換法則(可換法則ともいう)に他なりません。

一般の群では交換法則が成り立つとは限りませんが、

+に交換法則を要求するのは当然です。

$3+5=5+3$

はいつでも成立してほしいですよね!

(これが引き算だとそうはいきません $3-5 \neq 5-3$)

つまり、線形空間の最初の4つの条件は、

$V$は+についての群で、しかも交換法則が成り立つよ!

と主張しているに過ぎないのです。

実に一行です。

群を知っていると、前半はすっきり理解できます。

では次に見出しで残りの4つの条件を考えていきましょう。

線形空間(ベクトル空間)と「まっすぐ」の一般化

先ほどの見出しで、線形空間の最初の4つの条件は、

「$V$が+についての群で、しかも交換法則が成立する」

ということを主張しているとまとめました。

では、続きの4つの条件は何のために必要なのでしょうか?

まず(5)と(6)について考えようと思います。

(線形空間の定義の続き)

$V$を集合とし、$F$を体とする。

$V$の任意の元$x$と$F$の任意の元$a$について

スカラー倍$ax$が定義され、$ax \in V$である。

このとき、

(5) すべての$x \in V, a, b \in F$について

   $a(bx)=(ab)x$が成立する

(6) $F$の単位元$1_F \in F$とすべての$x \in V$に対して

   $1_Fx=x$

こいつらは、「まっすぐ」という概念を数学的に記述するために必要なのです。

「まっすぐ」なものと言われて一番最初に思い浮かぶのはなんでしょう?

直線ではないでしょうか?

すなわち、$y=ax+b$です。

これを集合で記述してみましょう。

$A=\lbrace (x, y) \mid y=ax+b \rbrace$

とします。さぁこれは+について群になるでしょうか?

直線は$xy$平面上にあるので、+は座標の足し算です。

$(x_1, y_1) \in A$と$(x_2, y_2) \in A$を取ります。

$(x_1, y_1)+(x_2, y_2) \in A$であればよいことになります。

どうでしょうか?

+は座標の足し算(ベクトルを習っている方であれば、ベクトルの足し算と認識してください)

$(x_1, y_1)+(x_2, y_2)=(x_1+x_2, y_1+y_2)$

です。問題は、

$(x_1+x_2, y_1+y_2)$が$y=ax+b$という条件を満たすかどうかです。

$y=ax+b$の$y$はもちろん$y_1+y_2$です。

そして、$ax+b$の$x$は$x_1+x_2$です。

$y_1+y_2=a(x_1+x_2)+b$

が成立するかどうかを確かめることになります。

$y_1=ax_1+b$で、$y_2=ax_2+b$です。

よって、

$y_1+y_2=(ax_1+b)+(ax_2+b)$

$=a(x_1+x_2)+2b$

$\neq a(x_1+x_2)+b$

です。

残念ながら、「まっすぐ」の代名詞である直線(一次関数)は

+について群になりません。

でもまだあきらめるには早いです。

先ほどの計算結果をよく見返してください。

$a(x_1+x_2)+2b \neq a(x_1+x_2)+b$

がいけなかったことが分かると思います。要するに、

$y=ax+b$の$b$が群であることを妨げているわけです。

なら$b$をカットすればいいじゃん!

というシンプルな発想で、次は$y=ax$を考えてみましょう。

これは原点を通る直線です。立派に「まっすぐ」です。

$B=\lbrace (x, y) \mid y=ax \rbrace$

としましょう。

これは+について群になるでしょうか?

$(x_1, y_1) \in B$と$(x_2, y_2) \in B$を取ります。

$(x_1, y_1)+(x_2, y_2)=(x_1+x_2, y_1+y_2)$

が$y=ax$を満たすかどうか確認しましょう。

$y_1+y_2=ax_1+ax_2=a(x_1+x_2)$

よって、$(x_1, y_1)+(x_2, y_2) \in B$

がなりたち、$B$は群となります!

 ※$(0, 0)が単位元、(-x, -y)が逆元$で、+について結合法則も成り立つ

これらのことから、「まっすぐ」を一般化するには

$y=ax$ がカギになる

ということが分かります。

特に、$y=ax$ の $a$ です。

これが直線を「まっすぐ」たらしめる重要なファクターとなります。

そこで、$a$に「スカラー」という名前を付けることにしました。

「スカラー倍」という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃると思いますが、

この「スカラー」は、

要するに$y=ax$の $a$ を一般化したものである、

と思うとぐっと親しみやすくなると思います。

※「スカラー」は物理用語で、方向や単位を持たない量を表します。数学におけるスカラーは無定義語なので、なんとなくでイメージしてもらえればOKです。

通常、$y=2x,$ $y=3x,$ $y=\dfrac{1}{4}x, $ $y=\sqrt{5}x$

など、$y=ax$の$a$は実数です。すなわち、$a \in \mathbb{R}$です。

今回はこれを一般化するので、

$\mathbb{R}$から「体(たい)」という情報だけ取り出すことにします。

そして、$x \in V$と$a \in F$についてスカラー倍という演算を

$ax$ で定義するのです。当然$ax \in V$です。

ちなみに、「体」とは、簡単に言えば四則演算で閉じた集合です。

ここで、線形空間の定義の(5)と(6)条件を改めてみていきましょう。

(線形空間の定義の続き)

$V$を集合とし、$F$を体とする。

$V$の任意の元$x$と$F$の任意の元$a$について

スカラー倍$ax$が定義され、$ax \in V$である。

このとき、

(5) すべての$x \in V, a, b \in F$について

   $a(bx)=(ab)x$が成立する

(6) $F$の単位元$1_F \in F$とすべての$x \in V$に対して

   $1_Fx=x$

スカラー倍が普通の掛け算と異なる点として、2つの集合にまたがる演算である、という点が挙げられます。

今回の場合は、$V$と$F$です。

条件(5)はスカラー倍の結合法則です。

群と同じ流れで考えると、あと単位元と逆元の存在を保証すればいいことになります。

実際、条件(6)は単位元についての条件です。

でも、なぜか逆元の条件が付いていません。

不思議じゃないですか?

逆元とは、それを演算した結果に単位元に行きつくものです。

$ax \in V$でなければならいので、$V$の単位元$o$に行きつく$a$の元を保証しなくてよいのか?

という発想になります。$V$は+についての元なので、単位元はゼロっぽい働きをする$o$です。

$ax=o$となる$a$について言及しなくてよいのでしょうか?

あと$ao=o$も保証しなくていいのでしょうか?

実はこれらは、最後の2つの条件を細かく見ていくと明らかになります。

(線形空間の定義の最後の2つ)

(7) すべての$x, y \in V, a \in F$について

   $a(x+y)=ax+ay$が成り立つ

(8) すべての$x \in V, a, b \in F$に対して、

   $(a+b)x=ax+bx$が成り立つ

いま、$V$には「+」と「スカラー倍」の2つの演算が定義されています。

演算が2種類存在するときは、それをまぜた計算ができるかどうかチェックすることが大切です。

すなわち、分配法則。

条件(7)と条件(8)は分配法則が成り立つことを保証しています。

ここで、ちょっと補足の注意です。

まず条件(7)について。

$x+y$は当然$V$についての足し算です。

そして、左辺の$ax+ay$ですが、

$ax \in V, ay \in V$なので、右辺の$ax+ay$も$V$についての足し算です。

したがって、条件(7)は「スカラー倍」と「$V$の足し算」についての条件

と読み取ることができます。

これが、条件(8)ではちょっとだけ様子が違うのです。

$a+b$は$F$についての足し算だからです。

右辺の$ax+bx$は、

$ax , bx \in V$なので$V$の足し算です。

よって条件(8)は、「$F$の足し算」と「スカラー倍」と「$V$の足し算」の

3つの演算のダンスと読み取るべきものなのです。

さて、話を戻しましょう。

スカラー倍について、単位元については(5)で言及があるのに、逆元の言及がない理由です。

すなわち、$ax=o$となる$a \in V$の存在は保証しなくてよいのか?という点です。

これは、実は条件(8)から導けてしまうのです。

$F$は体なので、足し算についての単位元$0 \in F$が存在します。

$(a+b)x=ax+bx$において、$a=b=0$としてみましょう。

$(0+0)x=0x+0x$

左辺について、$0+0=0$なので、

$0x=0x+0x$

です。$0x \in V$であり、$V$は群なので逆元$-0x \in V$が存在します。

それを$0x=0x+0x$

の両辺に足すと、

$0x+(-0x)=0x+0x+(-0x)$

$o=0x$

となります。

よって、$ax=o$となる$a \in F$の正体は$0 \in F$であったと分かるのです。

$ao=o$もほぼ同じです。

条件(7)の式 $a(x+y)=ax+ay$

に$x=y=o$を代入しましょう。

$a(o+o)=ao+ao$

$ao=ao+ao$

$ao \in V$の逆元を両辺に加えると、

$o=ao$

よって、$ao=o$が導けました!

だから$0x=o$と$ao=o$については言及がなかったのです。

でも単位元についての式$1_Fx=x$は

条件(7)と(8)から示すことができないので、

条件(5)で言及しておく必要があったわけです。

まぁ、いろいろ言いましたが、ポイントは次です。

①線形空間には、「+」と「スカラー倍」という2種類の演算が定義されている。

②「スカラー倍」は$y=ax$から「まっすぐ」を一般化したもの

最後にもう一度だけ定義を確認して、線形空間の具体例を見ていきましょう!

($F$上の線形空間の定義)

$V$を集合とする。また、$F$を体とする。

$V$の任意の元$x, y$について

和$x+y$が定義され、$x+y \in V$である。

また、$V$の任意の元$x$と$F$の任意の元$a$について

スカラー倍$ax$が定義され、$ax \in V$である。

更に$V$が以下の条件を満たすとき、

$V$を$F$上の線形空間という

(1) すべての$x, y, z \in V$に対して、

   $x+(y+z)=(x+y)+z$

(2) すべてのの$x \in V$に対して

   $x+o=o+x=x$となる元$o \in V$が存在する。

(3) すべての$x \in V$に対して

   $x+k=k+x=o$となる$k \in V$が存在する

(4) すべての$x, y \in V$に対して

   $x+y=y+x$が成立する

(5) すべての$x \in V, a, b \in F$について

   $a(bx)=(ab)x$が成立する

(6) $F$の単位元$1_F \in F$とすべての$x \in V$に対して

   $1_Fx=x$

(7) すべての$x, y \in V, a \in F$について

   $a(x+y)=ax+ay$が成り立つ

(8) すべての$x \in V, a, b \in F$に対して、

   $(a+b)x=ax+bx$が成り立つ

線形空間(ベクトル空間)の具体例

では、線形空間の例を見ていきましょう。

例1:座標平面

最もポピュラーな例は、$xy$平面です。

これは$\mathbb{R}^2$と表されることも多いので、記号を覚えておきましょう。

$\mathbb{R}^2=\lbrace (x, y) \mid x, y \in \mathbb{R}\rbrace$

です。

これは、$(x_1, y_1), (x_2, y_2) \in \mathbb{R}^2$について

足し算を$(x_1, y_1)+ (x_2, y_2)=(x_1+x_2, y_1+y_2) $

と定義し、

スカラー倍を$a(x_1, y_1)=(ax_1, ay_1)$と定義すると

線形空間になります。($a \in \mathbb{R}$)

(詳しく言うなら、$\mathbb{R}$上の線形空間です。)

ちなみに$xyz$座標空間も$\mathbb{R}$上の線形空間です。

これは$\mathbb{R}^3=\lbrace (x, y, z ) \mid x, y, z \in \mathbb{R} \rbrace$

で表されます。

例2:多項式全体の集合

例えば、有理数$\mathbb{Q}$を係数に持つ多項式全体の集合を考えましょう。

そのような集合は$\mathbb{Q}[x]$で表すことがあります。

すなわち、

$\mathbb{Q}[x]=\lbrace a_nx^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots + a_1x+a_0 \mid $

$n \in \mathbb{Z}, a_i \in \mathbb{Q}(i=1, 2, \cdots, n) \rbrace$

です。

例えば、

$f(x)=2x^3+3x^2+4x+\dfrac{1}{2}$

$g(x)=-\dfrac{1}{2}x^3+4x^2+x+1$

としましょう。

$f(x), g(x) \in \mathbb{Q}[x]$

です。

で、

$f(x)+g(x)$

$=(2-\dfrac{1}{2})x^3+(3+4)x^2+(4+1)x+(\dfrac{1}{2}+1)$

$=\dfrac{3}{2}x^3+7x^2+5x+\dfrac{3}{2}$

となり、$f(x)+g(x)\in \mathbb{Q}[x]$です。

和で閉じてます

また、$5 \in \mathbb{Q}$ですが、

$5f(x)=10x^3+15x^2+20x+\dfrac{5}{2}$

であり、$5f(x) \in \mathbb{Q}[x]$です。

スカラー倍でも閉じてます。

のこりの8つの性質も満たすため、

$\mathbb{Q}[x]$は$\mathbb{Q}$上の線形空間です。

例3:有理数に2の平方根を添加した集合

次の例は

$\mathbb{Q}(\sqrt{2})=\lbrace a+b\sqrt{2} \mid a, b \in \mathbb{Q} \rbrace$

です。

$(a_1+b_1\sqrt{2})+(a_2+b_2\sqrt{2})$

$=(a_1+a_2)+(b_1+b_2)\sqrt{2} \in \mathbb{Q}(\sqrt{2})$

となり、和で閉じてます。$(a_1, a_2, b_1, b_2 \in \mathbb{Q})$

また、$k \in \mathbb{Q}$を取ると、

$k(a_1+b_1\sqrt{2})=ka_1+kb_1\sqrt{2} \in \mathbb{Q}(\sqrt{2})$

です。スカラー倍でも閉じてます。

そのほか8つの性質も満たすので、

$\mathbb{Q}(\sqrt{2})$は$\mathbb{Q}$上の線形空間です。

その他

これ以上は深入りしませんが、

数列全体の集合や、微分方程式の解空間なども線形空間になります。

まとめ

いかがでしたか?

・線形空間には「+」と「スカラー倍」の2つの演算がある

・「スカラー倍」は$y=ax$ の$a$を一般化して「まっすぐ」を数学で表現したもの

・線形空間の8つの条件のうち、最初の4つは和について群で、交換法則が成り立つという内容

・次の2つはスカラー倍の結合法則と単位元についての条件

・最後の2つは和とスカラー倍の分配法則

以上を押さえていただければと思います。

「線形空間を使うとガロア理論をすっきり表せる」と気づいたアルティンはマジで天才だと思います。

線形空間のすごさは今後随所で活躍しますので、ご期待ください。

ではまた次回の記事でお会いしましょう!

参考

画像素材提供(アイキャッチ):Gerd AltmannによるPixabayからの画像

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