基底と次元を具体例で分かりやすく

基底と次元

今回は、線形空間の基底と次元を扱います。

めちゃくちゃ重要な概念です。

次元という概念を上手く数学で表現するために基底という概念を作り出した、

といった感じのイメージでいると少し親しみやすいかと思います。

今回も具体例で説明していこうと思います。

目次

基底と次元の考え方について

直線は1次元で、平面は2次元、そして立体は3次元。

我々は、次元というものをなんとなく理解しています。

でも、「じゃぁ次元って何のことだよ?」

と聞かれると返しに困ってしまいますよね。

そこで、まずは$xy$座標平面$\mathbb{R}^2$と$xyz$座標空間$\mathbb{R}^3$は

本質的になにが違うのか、という点を考えていこうと思います。

その際、基礎知識として「線形空間」と「線形独立」が必要になるので、

馴染みのない方は以下の記事をご覧ください。

線形空間

線形独立

では、先に進んでいきましょう!

まず、

$\mathbb{R}^2=\lbrace (x, y) \mid x, y \in \mathbb{R} \rbrace$

$\mathbb{R}^3=\lbrace (x, y, z) \mid x, y, z \in \mathbb{R} \rbrace$

です。

こいつらはどう違うのでしょう?

そのときヒントになるのは、「一次独立」の考え方!

まず$\mathbb{R}^2$を考えましょう。

$(x, y) \in \mathbb{R}^2$について、

$(x, y)=(x, 0)+(0, y)$

$=x(1, 0)+y(0, 1)$

です。

つまり、$\mathbb{R}^2$のすべての元は、

$(1, 0)$と$(0, 1)$のスカラー倍の和で表すことができます。

ここで、$(1, 0)$と$(0, 1)$は線形独立です。

次に、$\mathbb{R}^3$を考えます。

$(x, y, z) \in \mathbb{R}^3$を考えましょう。

$(x, y, z)=(x, 0, 0)+(0, y, 0)+(0, 0, z)$

$=x(1, 0, 0)+y(0, 1, 0)+z(0, 0, 1)$

$\mathbb{R}^3$のすべての元は、

$(1, 0, 0)$と$(0, 1, 0)$と$(0, 0, 1)$のスカラー倍の和で表すことができます。

そして、$(1, 0, 0)$と$(0, 1, 0)$と$(0, 0, 1)$は線形独立です。

どうですか?

$\mathbb{R}^2$は線形独立なものが2個

$\mathbb{R}^3$は線形独立なものが3個です。

$\mathbb{R}^2$と$\mathbb{R}^3$は本質的に何が違うのか?

その答えは、線形独立なものの個数です!

線形独立なものがとても重要な役割を果たすので、

これに基底という名前を付けることにします。

そして、基底の元の個数を「次元」と呼ぶことにしたのです。

では、次の見出しで厳密な定義を見ていきましょう!

基底と次元の定義

(基底の定義)

$V$を$F$上の線形空間とする。

$V$の元の組$\lbrace v_1, v_2, \cdots, v_n \rbrace$

が次の2つの条件を満たすとき、

$\lbrace v_1, v_2, \cdots, v_n \rbrace$を基底という。

① $v_1, v_2, \cdots, v_n$は線形独立

② $V$の元$v$を任意にとる。このとき、

  $a_1, a_2, \cdots , a_n \in F$が存在して、

  $v=a_1v_1+a_2v_2+\cdots +a_nv_n$

   と表すことができる

(次元の定義)

$V$を$F$上の線形空間とする。

$V$の基底をなす元の個数が有限個のとき、

その個数を$V$の$F$上の次元と言い、

$\dim_F(V)$と表す。

(単に$\dim (V)$と表すことも多いです)

はい、次元を数式で記述することができました!

例えば、$\mathbb{R}^2$の基底は

$(1, 0)$と$(0, 1)$の2個なので、

$\dim_{\mathbb{R}}(\mathbb{R}^2)=2$

です。要するに、$\mathbb{R}^2$の次元は2です。

何を当たり前のことを、と思うかもしれませんが、

いま我々は次元という概念の捉え方が変わる瞬間に立ち会っています。

直感でなんとくなくとらえていた次元という概念が数学的になったのです。

今まで:2次元は「よこ」と「たて」があるもの

これから:2次元は、基底をなす元の個数が2個もの

3次元は、「よこ、たて、うえ、があるもの」という認識から、

「基底をなす元の個数が3個のもの」と一般化できます。

4次元は、我々の直観では最早認識することができませんが、

今までの考えを応用すると、「基底をなす元の個数が4個のもの」と捉えることができます。

$n$次元なら、「基底をなす元の個数が$n$個のもの」となります。

このように、基底という概念を使うと、次元を一般化して数学的にとらえることができるのです。

ちなみに、$\dim$はディメンションの略です。かっこいいですよね!

では、次の見出しで具体例を見ていきましょう

具体例

ではここで、基底と次元について、具体例を見ていきましょう。

基底であるかどうかを調べるには、

①線形独立かどうか

②すべての元をスカラー倍の和で表せるかどうか

の2点をチェックすればよい、ということを押さえておきましょう。

具体例①

まずはやっぱり$\mathbb{R}^2$です。

先ほどは$\lbrace (1, 0), (0, 1) \rbrace$が

$\mathbb{R}^2$の基底となることを確認しましたが、

実は$\lbrace (1, 2), (3, 4) \rbrace$も

$\mathbb{R}^2$の基底となります。

そのことを確認しておきましょう!

まず、$(1, 2)$と$(3, 4)$が線形独立であることを確認します。

$\mathbb{R}^2$は$\mathbb{R}$上の線形空間なので、

$a, b \in \mathbb{R}$をとり、

$a(1, 2)+b(3, 4)=0$

が成り立つのが$a=b=0$のときのみであることを示せばよいです。

$a(1, 2)+b(3, 4)=(a, 2a)+(3b, 4b)$

$=(a+3b, 2a+4b)$

よって、$a+3b=0, 2a+4b=0$

です。

$2a+4b=0$より、$a+2b=0$

したがって、

$a+3b=0…①$

$a+2b=0…②$

を解きます。①-②より、

$b=0$です。これを①に代入すると、$a=0$となり、

$(1, 2)$と$(3, 4)$は線形独立であることが分かりました。

次に、$\mathbb{R}^2$のすべての元が

$(1, 2)$と$(3, 4)$のスカラー倍で表せるかどうかを確認します。

$(x, y) \in \mathbb{R}^2$を任意にとります。

このとき、$(x, y)=c(1, 2)+d(3, 4)$

となるような$c$と$d$が存在すればよいです。

$c(1, 2)+d(3, 4)=(c, 2c)+(3d, 4d)$

$=(c+3d, 2c+4d)$

より、

$c+3d=x…③$

$2c+4d=y…④$

を解けばよいことになります。

$③×2-④$より、

$2d=2x-y$

$d=\dfrac{2x-y}{2}$

これを③に代入して整理すると、

$c=\dfrac{-4x+3y}{2}$

です。

よって、

$(x, y)=\dfrac{-4x+3y}{2}(1, 2)+\dfrac{2x-y}{2}(3, 4)$

となり、

$\mathbb{R}^2$のすべての元は$(1, 2)$と$(3, 4)$のスカラー倍の和で表されることが確認できました

以上のことから、$\lbrace (1, 2), (3, 4) \rbrace$も$\mathbb{R}^2$の基底であることが分かります。

要するに、基底の取り方は一通りではないのです。

これは結構重要なポイントなので、押さえておきましょう!

高校でベクトルを習った人は、

「一次独立なベクトルを2本とってこれば、平面上のすべてを表すことができる」的なことを教わったと思いますが、

これは基底の取り方が一通りではないということが根拠になっています。

このように、線形代数を学ぶと高校数学の理解が少し深まることがあります。

具体例②

次は$\mathbb{Q}(\sqrt{2})$を考えていこうと思います。

$\mathbb{Q}(\sqrt{2})=\lbrace a+b\sqrt{2} \mid a, b \in \mathbb{Q} \rbrace$

です。

$\mathbb{Q}(\sqrt{2})$は$\mathbb{Q}$上の線形空間です。

まず、$\lbrace 1, \sqrt{2}\rbrace$が基底となることを示しましょう。

線形独立であることから確認します。

$a, b \in \mathbb{Q}$をとり、$a+b\sqrt{2}=0$

のとき、$a=b=0$を示します。

これは背理法でいきましょう。

$b \neq 0$と仮定すると、

$\sqrt{2}=-\dfrac{a}{b}$

となり、$\sqrt{2}$は有理数ということになりますが、

これは矛盾なので、$b=0$です。

$a+b\sqrt{2}=0$に$b=0$を代入すると、

$a=0$となり、$1$と$\sqrt{2}$が線形独立であることが示されました。

次に、$\mathbb{Q}(\sqrt{2})$の元が$1$と$\sqrt{2}$のスカラー倍の和で表されることを示しましょう。

これはほぼ明らかですよね。

$x+y\sqrt{2} \in \mathbb{Q}(\sqrt{2})$を任意にとると、

$x+y \sqrt{2}=x×1+y×\sqrt{2}$

となり、$1$と$\sqrt{2}$のスカラー倍の和で表されます。

よって、$\lbrace 1, \sqrt{2} \rbrace$は$\mathbb{Q}(\sqrt{2})$の基底となります。

基底が2個なので、次元は2です。

式で表すと、$\dim(\mathbb{Q}(\sqrt{2}))=2$

ですね。「よこ」とか「たて」という概念がなくても、

数学的な次元は定義することができるのです。

次元と線形空間の一致に関する定理

最後に、線形空間について調べるうえで次元が大活躍する次の定理を紹介して終わろうと思います。

(次元と線形空間の一致に関する定理)

$V$と$W$を$F$上の線形空間とする。

$V \subset W$かつ$\dim (V)=\dim (W)$であるならば、

$V=W$となる。

正し、$\dim(V)$と$\dim(W)$は有限次元であるとする。

「線形空間の次元が一致していたら全体も一致する」というとんでもない定理です。

証明は意外と難しく、次の補題を使います

(補題)

$V$を$F$上の線形空間とする。

$V$の元$r$個の組$\lbrace v_1, v_2, \cdots, v_r \rbrace$

は線形独立であるとする。このとき、

$v \in V$が$v_1, v_2, \cdots, v_r$の線形結合で表せないなら、

$V$の元$r+1$個の組

$\lbrace v_1, v_2, \cdots, v_r, v \rbrace$も線形独立である。

(補題の証明)

$a_1, a_2, \cdots, a_n, a \in F$をとる。

$V$の加法単位元を$o$とする。

$a_1v_1+a_2v_2+\cdots +a_nv_n +av=0$

のとき、$a_1=a_2= \cdots =a_n=a=0$を示せばよい。

背理法によって示す。

$a \neq 0$と仮定すると、

$v=-\dfrac{a_1}{a}v_1+\cdots -\dfrac{a_n}{a}$

となり、これは

$v \in V$が$v_1, v_2, \cdots, v_r$の線形結合で表せないことに反する。

よって、背理法より、$a=0$である。…①

$a=0$を

$a_1v_1+a_2v_2+\cdots +a_nv_n +av=0$

に代入すると、

$a_1v_1+a_2v_2+\cdots +a_nv_n =0$

となり、

$\lbrace v_1, v_2, \cdots, v_r \rbrace$

が線形独立であることより、

$a_1=a_2=\cdots, a_n=0$

である。…②

①②より、

$a_1=a_2= \cdots =a_n=a=0$

となり、

$\lbrace v_1, v_2, \cdots, v_r, v \rbrace$

が線形独立であることが示された。

(証明終了)

では、証明していきます。

(次元と線形空間の一致に関する定理の証明)

$V$と$W$を$F$上の線形空間である。

$V \subset W$かつ$\dim (V)=\dim (W)$

であるとき、$V=W$であることを示す。

$V=W$であることの必要十分条件は

$V \subset W$かつ$W \subset V$である。

よって、$W \subset V$を示せばよい。

いま、$\dim(V)=\dim(W)=n$とおく。

すると、$V$と$W$の基底をなす元の数はそれぞれ$n$個となる。

そこで、$V$の基底を$\lbrace v_1, v_2, \cdots, v_n \rbrace$とし、

$W$の基底を$\lbrace w_1, w_2, \cdots, w_n \rbrace$とする。

$V=\lbrace a_1v_1+a_2v_2+\cdots +a_nv_n \mid a_1, \cdots, a_n \in F \rbrace$

$W=\lbrace b_1w_1+b_2w_2+\cdots +b_nw_n \mid b_1, \cdots, b_n \in F \rbrace$

である。

$W \subset V$を示すには、

$w \in W$について、$w \in V$であればよい。

$\dim(V)=n$であるので、$n+1$個の元の組

$\lbrace v_1, \cdots, v_n, w \rbrace$

は線形従属である。

ここで、補題の対偶より、

$n+1$個の元の組$\lbrace v_1, \cdots, v_n, w \rbrace$が線形従属なとき、

$w$は$n$個の元の組$\lbrace v_1, v_2, \cdots, v_n \lbrace$

の線形結合で表されることになる。

したがって、

$w=a_1v_1+a_2v_2+\cdots, a_nv_n$となる

$a_1, a_2, \cdots, a_n \in F$が存在することになり、

$w \in V$となる。

$V \subset W$かつ$W \subset V$より、

$V=W$が証明された

(証明終了)

まとめ

いかがでしたか?

・基底という概念を導入することで、なんとなくの理解だった「次元」という概念を数学的に記述できる

という点を感じていただければと思います。

ではまた次回の記事でお会いしましょう!

参考

画像素材提供(アイキャッチ)51581によるPixabayからの画像

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